星野リゾート 界 加賀がある山代温泉は、金沢駅から北陸線の特急に乗り換えておよそ30分の加賀温泉駅が最寄り駅。
駅は現在、2023年春の北陸新幹線敦賀延伸に向け、工事を行っている真っ最中。北陸新幹線の加賀温泉駅が開業すれば、
首都圏からのアクセスもぐっと楽々になります。
およそ1300年の歴史を刻んできた山代温泉。江戸時代頃に街の中心に「総湯」と呼ばれる共同浴場が立ち、その周りに
湯宿が立ち並ぶ「湯の曲輪(ゆのがわ)」と呼ばれる温泉街が形成され、今なお、その街並みは維持されています。
界 加賀があるのは、この共同浴場のすぐそば。1624年にこの地で創業した旅館「白銀屋」の歴史を受け継ぐ湯宿です。
古き良き湯宿の歴史を未来に伝える伝統建築
界 加賀のエントランスは実に印象的。江戸時代後期建造といわれるこの伝統建築棟は、正面に紅殻格子を配し、屋根の
両側にうだつが建つどっしりとした町家。玄関から入ってすぐは天井が低いのですが、フロントへ進むと見上げるほどに
高くなり、太い梁が幾重にも渡されているのが見て取れます。これは「枠の内」と呼ばれる、大雪に耐えるよう金物を
使用せずに太い柱や梁を組み上げる北陸伝統の工法。この地の伝統工芸の一つ、水引をアレンジした真っ白なオブジェ
が天井から下り、黒々とした梁と美しいコントラストを描いています。
↑趣あふれるエントランス。伝統建築等の背景に宿泊棟が立っています ↑枠の内に飾られた水引のオブジェは自遊工房の作品
この伝統建築棟と外回廊で結ばれたトラベルライブラリーに面した庭園には茶室があり、この2つの建物は国登録
有形文化財になっています。一見、質実な設えながら、格天井など意匠凝らされているこちらの茶室では、
抹茶と季節の和菓子を味わえます。
庭園のなかに佇むお茶室。モミジが植えられ、秋には紅葉も楽しめます
和菓子は創業100年以上の老舗「御菓子処しもつね」のもの
加賀の工芸品に囲まれるくつろぎの時
「伝統とモダンの融合」をコンセプトとする界 加賀の客室は、全室が加賀の伝統工芸を身近に感じられるご当地部屋
になっています。加賀の伝統工芸といえば、先に登場した水引のほか、加賀友禅、九谷焼、山中漆器。ベッドライナー
やベッドヘッドを飾るパネルに加賀友禅、客室で使用する茶器に九谷焼や山中漆器、ベッドルームとリビングを隔てる
障子に水引をあしらうなど、さりげなく室内を彩っています。加賀のものたちに囲まれて、ソファーでくつろぐ。私が
宿泊した客室は、山代温泉の中心地「古総湯」(明治時代の総湯を復元した共同浴場)に面しており、レトロな湯屋を
見下ろせます。テラスにはチェアーが用意されているので、ここで湯上がりに涼むのも乙なひと時です。
客室はリビングとベッドルームが障子で仕切られています
客室の設えや茶器に、加賀の伝統工芸の奥行きの広さをしみじみ感じて
界 加賀では、大浴場にも伝統工芸が!内湯の壁面には、九谷焼の「色絵」「青手」「赤絵」「藍九谷」という4つの
伝統様式で作られた若手作家の手による九谷焼のアートパネルが、露天風呂との仕切りには金沢箔で白山が描かれて
います。やわらかな肌触りの湯につかりつつ作品の全貌を眺め、そばに寄ってその細緻さにため息。さらに脱衣所に
は加賀提灯が吊るされています。加賀百万石の文化のなんと豊かなことか!
脱衣所に飾られた加賀提灯。女性用大浴場のスリッパの目印クリップにも水引があしらわれてとってもキュート
温泉は40度ほどと、熱すぎず、ぬるすぎない温度に湯守が整えています。松を配した露天風呂は日中も趣がありますが、
夜になると金箔を施した“朧月”が出現!やさしく湯を照らし風情が増します。
湯上がり処では、温泉の入り方やストレッチ方法などを楽しく学べる講座を毎日開催。体に効果的な入浴方法を知ること
で、よりリラックスできます。
界 加賀の湯守がレクチャー。山代温泉の歴史から呼吸方法まで、内容盛りだくさん!
温泉は共同浴場「古総湯」と同じ源泉。古総湯の湯温は42度ほどあるそうですが、
界 加賀では、副交感神経が優位になりリラックスできる温度帯の約40度に整えているそう
「器は料理の着物」魯山人の思想を映す美食の数々
山代温泉にゆかりのある北大路魯山人は、当代きっての美食家として知られました。大正4年10月に看板を彫る仕事を
依頼され山代温泉を訪れた魯山人は、当地に半年ほど滞在。その間、宿の主人たちだけでなく、陶芸家の須田菁華とも
交流を深め、作陶の基礎を学びました。
「器は料理の着物」とは、魯山人が残した言葉。界 加賀の夕食の時は、器があってはじめて料理が完成するのだと
気づく瞬間でもあります。九谷焼の若手作家に依頼して作られたオリジナルの器たち。旬の食材で仕立てた料理が器
という着物をまとった姿は、手をつけるのが惜しくなるほど!それでも、ひと口、ひと口味わいながら箸をすすめて
いくと、料理で隠れていた器の全貌が少しずつ見えてくるのもまた、密やかな楽しみになります。
うわぁ、こんな絵柄が隠れていたんだ...と自然に感嘆の声が漏れます。
界 加賀・この夏の特別会席の先付けは、「水貝と季節野菜の冷やし鉢」。水貝は魯山人が好んだ調理法。
氷水の上にアワビの刺身や加賀太瓜、オクラなどの夏野菜が涼しげに盛られています。くぐり出汁にとおし、
アワビの肝ダレか白山堅豆腐と出汁を合わせた特製のタレにつけていただきます。白山堅豆腐のタレは特に
野菜にぴったり。クリーミーで、和製バーニャカウダといえる一品です。
さらに台の物には「牛のすき鍋」が登場します。「料理は温かいものを温かく」という配慮から、付け合わせの
卵はほどよく温められられた状態で提供されます。暑さでバテてしまいがちな夏。甘辛く仕立てたすき鍋の
やわらかな和牛がパワーをチャージしてくれそうです。
↑地元で栽培された酒米と山代温泉の薬王院温泉寺の井戸水で
醸された山代温泉限定の純米酒「やましろ」もおすすめ!
〜魯山人の作品にふれて〜
界 加賀では、夕食以外にも魯山人の世界観にふれることができます。伝統建築棟にあるギャラリーには、
魯山人の陶芸作品を展示。さらに、トラベルライブラリーには魯山人の書が飾られています。ゆったり椅子に
腰掛け、屏風いっぱいに書かれたダイナミックな筆致を堪能して。
界 加賀のご当地楽 迫力あふれる「加賀獅子舞」
その土地、土地の魅力を伝える界おなじみのご当地楽。界 加賀では金沢市の無形民俗文化財に指定されている
加賀獅子舞が披露されます。
照明を落としたトラベルライブラリーにお囃子と鈴の音が響く中、突如聞こえる、ガッ、ガッという鋭い音。
加賀獅子の登場は、獅子頭が立てるその音に驚きます。大輪の牡丹を描いた幕を背景にして披露される加賀獅子舞は、
「界 加賀」流に独自のアレンジを加えたもの。2名の舞い方が時に横一列に並び、時に向かい合い、目まぐるしく位置
を変えていきます。藩政時代の武家文化を彷彿とさせる勇壮さ。演舞の最後には、獅子舞と撮影もできるので、
旅の思い出にぜひ!
歴史と名湯にふれる幸福。美食を味わう口福。
界 加賀には、さまざまな幸福の形があります。のんびりゆったり、山代温泉の休日を過ごしてみませんか。
星野リゾート 界 加賀
石川県加賀市山代温泉18-47
TEL0570-073-011(界予約センター)
料金:1泊2食付2万2000円~(税・サービス料 別)
取材・文 川崎 久子