第116回 冬の楽しみ!神話の国で蟹会席を味わい、出雲大社お詣り支度「界 出雲」(島根県・出雲ひのみさき温泉)

毎年116日~320日と限られるズワイガニ漁。日本海に面した各地の漁港が賑わいます。冬のお楽しみ、シーズンには一度は味わいたい贅沢な蟹料理。「王道なのに、あたらしい。」をコンセプトにする温泉旅館「界」の3か所(出雲・玉造・加賀)でぜひ実現してください。というわけで、食い意地が張っている関屋が「界 出雲」へ出かけました。

2022年にオープンした「界 出雲」は島根半島の最西端、日御碕の突端に位置します。目の前には日御碕灯台が聳え日本海がぐるりと囲むような、すごい立地!なのです。しかし2024年夏、大雨の影響で県道が崩落、車両の通行ができなくなるという試練が。懸命の復旧作業により、同年9月から一般車両が、1224日からは大型車両も通行可能となり、正月は多くの観光客で賑わいを取り戻しました。

館内に一歩入ると、まず目に飛び込んでくるのは青い壁面のエントランスオブジェ。中世のたたら製鉄から受け継ぐ伝統技法を駆使したもので、日本刀の原料になる玉鋼と、玉鋼をつくる過程で生まれるノロという不純物で、日本海に沈む夕日を表現しています。

エントランスオブジェ

奥に進むと、ご当地楽広場があり、柱には注連縄、壁には石見神楽の衣装と面が飾られています。ここは毎夜開催される「ご当地楽」の石見神楽の舞台となるところ(荒天時や冬以外はテラスで開催)。広場のベンチは、石見地方特産の石州瓦が使われ、伝統工芸に次々と出合います。

ご当地楽広場

体が浮くかも!驚くほどの強塩泉でぽかぽか

 39室の客室は海を見晴らす東側と灯台を目の前にする西側の2種類があります。東側は朝陽が楽しめるので、それに合わせたやさしいピンク色、西側は夕日のオレンジをより感じられるように補色効果のある藍色がベースになっています。ベッドボードの石州和紙のアートワーク、草木染のクッション、石見焼の茶器など、随所に地元の伝統工芸が生かされています。

東側の客室、茶器は石見焼で、キーホルダーは大黒天(出雲大社の主祭神・大国主命)の打ち出の小槌をデザイン

そして今回は、「出雲大社お詣り支度プラン」ということで、客室にお詣り支度セットが用意されています。部屋に到着後、御神酒で体を清め、おすすめの滞在スケジュールや出雲大社での参拝方法などが記された参拝指南書を見て、翌日の出雲大社参詣に心身を整えます。セットにはオリジナルの御朱印帳やかみまもりがあります。かみまもりは、神在月に神々が上陸する稲佐の浜からいただいた砂を、出雲大社素鵞社(そがのやしろ)の砂と交換した、その清めの砂を入れるものです。

お詣り支度セット

次に温泉で体を清めましょう。16時から始まる「温泉いろは」に参加して「禊風呂」なるものを理解します。禊とは身を清めるため川や海などで行う水浴のこと。神社参拝の前に手水舎で手や口を清めるのも禊のひとつです。「界 出雲」では入浴も禊の一種と考え、「禊風呂」という位置づけをしています。自家源泉の出雲ひのみさき温泉は、塩分濃度の高いナトリウム-塩化物強塩泉。成分が濃く、浸透圧が大きい高張性の温泉(長湯厳禁)です。海水に近い濃度の温泉は、まさに禊にうってつけといえます。

左:温泉入口にも注連縄が 右:温泉いろは

いざ、禊! 大浴場の内湯にはあつ湯とぬる湯があり、ぬる湯は源泉かけ流し。しっかりかけ湯をして入ると、ちょっとしたすり傷が沁みる! なんと陰イオンの塩化物イオン2mg/kg超え!(ちなみに海水は約35000mg) はい、しっかりしょっぱくて体の力を抜くと浮きそうです。

海を見晴らす露天風呂は気持ちいいし、塩分が皮膚をコーティングしてくれてものすごく温まるしと、素晴らしい禊風呂! ただし塩分濃度が高いのでちょっと肌がべたつきますので、温泉を洗い流して出る方がいいでしょう。

神様ありがとう!八雲立つ蟹会席を堪能

 お待ちかねの夕食です。多くの神話の舞台である出雲に雲が立ち上る様子を「八雲立つ」と表現し、出雲の枕詞になっています。「八雲立つ蟹会席」(~2025310)は8品を取りそろえた新たな蟹の味わいを追求するもの。最初に登場するのがなんとメインの「松葉蟹の灯台盛り」です。日御碕灯台をイメージして高く盛られた蟹様は、インパクト大です! 

付け合わせはキャビア、雲丹、蟹味噌。丁寧に蟹身をほぐして美しく盛り付けられた姿に、スタッフの方の努力に感謝しつつ、甘い松葉蟹を口に運びます。うう、美味しい。さらに出雲大社の御祭神である大国主命=大黒様の顔が盃の下に彫られたオリジナルの器で出雲の地酒を。合う~。

蟹真薯の椀物、エディブルフラワーで華やかに彩られた蟹刺し霜降り仕立て、香箱蟹のグラタン仕立てなどと続き、注連縄付きの土鍋で炊いた炊き込みご飯と続きます。

蟹尽くしの会席

日本海の冬の恵みを堪能する口福をしっかり噛みしめました。もちろん、日本酒とのペアリングがありますので、ぜひそれぞれの料理と合わせて楽しんでください。 

スタッフが熱演!迫力満点の石見神楽

 地域の伝統芸能などを紹介する「ご当地楽」。「界 出雲」では石見神楽が演じられます。神楽は神社の祭礼で奉納される芸能。日本各地で発展し、独自のスタイルがあります。石見神楽は島根県西部、石見地方を代表するもので、神話を題材とし、分かりやすくエンターテインメントの要素が濃いことが特徴。神、鬼、大蛇が激しく勇壮に舞います。「界 出雲」では「国譲り」が上演、地上の神・大国主命の子、建御名方神(タケミナカタノカミ)と天上の神・天照大神の使者・経津主神(フツヌシノカミ)が出雲国をかけて戦います。

ご当地楽の石見神楽

演じているのは神楽師から10か月間指導を受けて、舞を習得したスタッフ。目まぐるしく立ち回り、迫力満点。さらに衣装の早変わりもあり目が離せません。

 

物語は建御名方神が破れ、大国主命は天照大神に出雲国を譲ることになります。最後に面を外したスタッフに万雷の拍手がやみません。そして記念撮影タイムへ、満足度が高過ぎる!

 

翌朝は出雲大社参拝に向けて朝陽を拝もうと、2階の奥に位置するトラベルライブラリー「かわたれテラス」へ。テラスにはカウンター席があり、水平線や山々の向こうから昇る朝陽が楽しめるようになっています。

日の出はやはり神々しい

この日は残念ながら雲が多く美しい朝焼けは望めなかったのですが、それでも早朝の凛とした空気を全身に浴びました。

 チェックアウト後は、稲佐の浜へ寄り、出雲大社をガイドの方と一緒に回ります。もちろんその前には再度の禊風呂を済ませ、神饌(しんせん)朝食と名付けられた、ありがたい朝ごはんをいただきます。

神饌朝食+和食の朝ごはん

神饌とは神様に供える供物のことで、小皿にしじみ佃煮やめかぶ酢、合鴨などの山海の珍味、玄米やお餅、隠岐の島の海士の塩などが盛られています。神様と同じ食事をいただくことで、強い縁で結ばれること間違いありません。

 

これに加えて通常の朝食もあるので、盛沢山。歯ごたえのあるあらめの磯鍋は海を感じる一品です。

 

 

さあ出雲大社お詣りへの支度は万全! いざ、出雲大社へ出発です。

  

界 出雲 

島根県出雲市大社町日御碕604

八雲立つ蟹会席 45000円~(21室利用時1名あたりの2食付き宿泊料金、税・サ込)

出雲大社お詣り支度プラン 42000円~(同上)

 

 

取材・文/関屋淳子 写真/yOU(河崎夕子)

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