第109回 この春開業した「界 秋保」へ。渓谷の風光と“伊達な”おもてなしを満喫(宮城県・仙台市)

宮城県仙台の奥座敷、秋保温泉。その歴史は古く、およそ1500年前に欽明天皇が秋保の湯で皮膚の病を癒したという伝説が残っています。秋保温泉は別所温泉・野沢温泉と並び「日本三御湯」と称され、さらに飯坂温泉・鳴子温泉とともに「奥州三名湯」に数えられています。藩政時代には伊達政宗公をはじめ、藩主も湯浴みに訪れたのだとか。歴史に彩られたここ秋保温泉に2024年4月25日、「界 秋保」が誕生しました。東北における「界」は青森県に続いて2施設目です。
東北の梅雨入りが宣言された直後の6月下旬、界 秋保を訪れました。

 

パブリックスペースで絶景を楽しむ
名取川沿いに長く延びる温泉郷の奥まった場所に界 秋保はあります。
仙台の七夕をイメージしたというパステルカラーで彩られた暖簾が風に揺れるファサード。

ロビーへの扉が開くと思わず、うわぁとため息が漏れました。天井から無数の松笠風鈴(後述)が下がるシンプルな設えのエントランスホールとは対照的に、ロビーは鮮やかな緑色が際立つ空間。高い天井まで届く大きな窓は、あえて上部を障子風の格子で仕切り、その下から名取川を縁どる瑞々しい緑が見えます。

屏風をイメージしているというこの窓は、春から夏にかけては新緑から濃い緑へと月を経るごとに彩りを深め、秋は錦繍、やがて冬は水墨画のような雪景色に。季節の移り変わりを、屏風を替えるように切り取っていきます。

トラベルライブラリー「せせらきラウンジ」は宿の1階で、最も名取川を近くに感じられる場所にあります。

テラスには源泉を引いた足湯が。さらに渓流に面して長いカウンターテーブルがあり、眼下に清流を望めます。

宮城にこだわって用意されたドリンクやお菓子を味わいながら、渓谷に渡る風を感じ、野鳥の声に耳を傾ける……。ここはまさに、喧騒から遠く離れた別天地です。
6月下旬のこの時は、渓谷の斜面に植えられたガクアジサイが咲きはじめでした。対岸の斜面には山桜や藤も自生しているそうで、季節の花も訪れる人を出迎えてくれます。
トラベルライブラリーでは15:30〜22:00まで、彩もかわいらしい仙台駄菓子やおかき、宮城にちなんだウイスキーやワインなどのお酒が用意されています。

また、毎晩21:00からは地元アーティストによる生演奏を楽しめます。
訪れた日はフルート奏者のライブでした。クラシックだけでなく、映画やアニメの音楽も取り入れた演目で、30分があっという間に過ぎていきます。

滞在の翌日は朝から雲一つない青空。梅雨とは思えない爽やかな初夏の日差しの下、7:00から「うるはし現代湯治」の体操で体の隅々まで伸ばします。

界 秋保オリジナルの体操は、渓流釣りをイメージした動き。足を前後に大きく開き、釣り竿を持った状態で体を大きく後ろへグッとそらし、釣り糸を遠くへ投げるのをイメージして、前方へ体を動かします。体操のあとは全身がほどよくほぐれて、朝食も一層おいしくいただけました。

 

ピクチャーウィンドウが印象的なご当地部屋「紺碧の間」

絵画を愛でるように秋保の風光を楽しむ趣向は、お部屋も同様です。「紺碧の間」と名付けられた界 秋保のご当地部屋は窓際のインテリアが印象的。
窓辺のスペースは、壁も、天井も、床も、ゆったりとしたソファーも、クッションも、すべてが紺碧色でまとめられています。深海にいるような紺碧の空間が大きな窓をグッと引き締め、窓外の景色がより一層美しく際立ちます。

客室は3〜5階と宿の高層に位置するため、2階にあるロビーとは景色の印象が異なります。窓の桟がやや幅広になっているので、そこをテーブルにしてティーカップなどを置くことも可能。ソファーに腰掛け、パノラマを楽しみながらゆったりお茶をいただくこともできます。

界 秋保は、家族連れなど大人数で利用するゲストが多いのだとか。
2〜3名で利用するタイプのほか、4名や8名など大人数で宿泊できるお部屋もあります。グループ旅や親子三世代の旅でも、ゆったりとした空間でくつろぐことができます。

写真は4名で利用できるお部屋の一例。ベッドルームの窓際には書斎として利用できるスペースが。
贅沢に一枚板を使用したテーブルの壁面にコンセントがあるので、パソコン作業もできます。伊達政宗公の家紋にちなみ、雀をモチーフにした襖を閉じれば、おこもり感が増して仕事が捗りそうです。

 

1500年の古湯を大浴場や露天風呂でたっぷりと

写真は男性用の露天風呂。

界 秋保の大浴場は名取川のせせらぎをイメージした回廊の先にあります。窓の外は涼やかな竹林で、温泉への期待が高まります。

大浴場には熱めとぬるめの2つの湯船と露天風呂があり、男性と女性で設えが異なります。


写真は男性用の大浴場。手前の岩風呂がぬる湯で、奥の湯船があつ湯になっています。

界 秋保では自家源泉を2本持っており、ほのかに琥珀色を帯びた温泉が湯船にたっぷりとかけ流されています。庭園風の露天風呂では清々しい緑を眺めての湯浴み。モミジもあるので、秋には紅葉も楽しめるとか。さらに男性用の露天風呂には山桜の木が。春には花見風呂で粋なひと時を過ごせそうです。

毎日16時に開催される「温泉いろは」も、ぜひご参加を。秋保温泉の歴史や温泉の効能、入り方などをコンパクトにまとめて指南してくれます。             写真左)自家源泉で温めたお絞りが用意され、源泉のぬくもりを感じることができます。
               写真右)秋保神社に訪れると界 秋保宿泊者限定のご朱印をいただけるのだそう。

 

夕食「新伊達会席」とご当地楽「伊達な宴」で殿様気分!?
夕食や界名物のご当地楽では、“伊達”な演出を楽しめます。
半個室の食事処に用意される「新伊達会席」は、料理の数々がお膳に載せられて供されます。宮城の旬の食材やご当地の食文化を和洋折中にアレンジした料理は、盛付けも妙も堪能できます。
例えば、先付は牛テールと仙台味噌をかけあわせたリエットを仙台麩につけていただきます。赤ワインが合いそうな一品ですが、辛口の日本酒とも好相性なのだとか。
また、特別会席の小鍋「牛の山海俵鍋」は米どころ宮城にちなみ牛肉を米俵風にしたてています。食材のうま味が生きた鍋の出汁へ、さらにトリュフを投入。牛肉を香り高い出汁にくぐらせたあと、お好みでウニを添えていただきます。口の中で海と山の幸が溶け合う至福!趣向を凝らした料理の数々を堪能できます。

朝食でももちろん、多彩な宮城の食材に出合えます。
地元名物の三角揚げや、地元の老舗豆腐店から届く吟醸豆腐、里芋と豚肉などを味噌仕立ての汁で煮込む芋の子汁。豆腐には隣県・山形の大名醤油のほか、塩竈の藻塩やオリーブオイルでいただくのもおすすめです。

界 秋保では、「ご当地楽」を楽しむための専用部屋を用意しました。
奥の壁面を彩る濃い藍色は「勝色(かちいろ)」と呼ばれ、武士の間で縁起のよい色とされていたのだとか。勝色の壁の中央には政宗公の軍旗を彷彿とさせる金の太陽を配置しています。
ここで夜な夜な繰り広げられるのは、ご当地楽「伊達な宴」。色々とサプライズ演出があるので、詳細はひみつです!伊達流の宴を追体験できるので、ぜひ体験してみてくださいね。

 

宮城の伝統工芸品や作家作品との幸福な出合い
“界めぐり”の醍醐味は、各地の伝統工芸品や地元で創作活動に励む作家作品に出合えること。界 秋保でも館内のあちこちで宮城の工芸品が待っています。
ロビーや客室に飾られている「仙台ガラス」の作品は、秋保に工房をかまえる「海馬ガラス工房」の村山耕ニ氏の手によるもの。仙台市内を流れる川の砂を原料としており、ガラスの中に浮かぶ気泡が美しいアクセントになっています。写真上は「紺碧の間」のデスクスペースに飾られたガラスアート。お部屋の入り口を照らすのは仙台市のお隣・白石市の伝統工芸・白石和紙のランプシェードです。またお部屋のカギには主に建築材として使用されている秋保石をキューブ状にカットしたオリジナルのキーホルダーが付いています。

地元の陶芸家の手による陶器もステキです。
写真左はトラベルライブラリーに用意されたカップで、仙台在住の陶芸家・針生峻氏の作品。陽光を受けてキラキラと輝く水のゆらめきのような模様が美しく、渓流に面したトラベルライブラリーにマッチしています。針生氏の実家は宮城県の伝統工芸品にも指定されている堤焼の窯元。ご当地楽で用意される酒器はこの堤焼です。
写真右はお部屋の茶器で、陶芸家・鈴木恵麗子氏の作。界 秋保のために作られたオリジナル品で、カップは渓谷の岩を彷彿とさせる渋い焦茶色に、チラリと見える赤土がよく映えます。一方で、湯のみは白い釉薬が爽やか。どちらも「紺碧の間」のインテリアにスッと溶け込んでいます。

写真左)エントランスホールに下がるのは、宮城の伝統工芸品である「松笠風鈴」。
表面がざらりとした鋳物の風輪で、魔よけの意味も込めて飾られています。

写真右)お部屋への回廊は、お隣・山形県米沢の郷土玩具「お鷹ぽっぽ」。一刀彫りの職人技が光ります。

 

界 秋保では、伊達藩ゆかりの温泉地らしいさまざまな趣向が用意され、そして館内にいながら、季節の“今”を肌で感じることができます。
今回は初夏の風景を堪能したけれど、次は盛夏、秋、冬、そして春と、美術館で絵画を観るようにすべての季節をここで愛でてみたい…。ふつふつとそんな気持ちがわいてくるお宿でした。

界 秋保
所在地:宮城県仙台市太白区秋保町湯元平倉1番地
電 話:050-3134-8092(界予約センター)
料 金:1泊2食付1名様31,000円〜(2名1室利用時の場合、税・サービス料込)

 

取材・文/川崎久子

 

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