東京駅から最速で約1時間30分、温泉湧出量毎分3万4000ℓという日本有数の湯量を誇る伊東温泉に到着します。街の中心部を流れる松川沿いには木造3階建ての旅館「東海館」(現在は観光施設)があり、古き良き温泉情緒を感じることができます。伊東といえばハトヤと、刷り込まれた世代も多いかと。じつは私も親にせがんでハトヤに連れて行ってもらったひとり、子どもの憧れが伊東温泉だったのです。「界 伊東」は『界』ブランドのなかでもファミリーに人気の宿。以前、旅恋の多田ファミリーも3世代旅を楽しみました。
今回は、しっとりと大人の滞在をご紹介します。
ご当地文化「つるし飾り」づくり体験
鶴、猿、うさぎなど愛らしい飾りが連なるつるし飾り。伊豆・稲取のつるし飾りは、福岡・柳川のさげもん、山形・酒田の傘福とともに三大つるし飾りといわれています。稲取では江戸時代後期から、桃の節句に祖母や母が端布で作った手作りの飾りを赤い紐でつるして、娘の健やかな成長を願ったと伝わっています。ひとつひとつの飾りには意味があり、鶴は長寿、猿は難が去る、眼の赤いうさぎは厄除け、巾着はお金に不自由しないように、草鞋は足が丈夫になるようになどなど。願いを込めて丁寧に作られたものです。
2024年2月29日(平日)まで実施されるのがこのつるし飾り体験、ご指導くださるのは雛のつるし飾り製作グループ「ニコニコ会」代表の齋藤美智子さん。「界 伊東」のロビーや客室のつるし飾りも手がけています。
齋藤先生のご指導のものと、椿を作ります。椿の5弁の花びらの色を選び、絹100%の生地を花びらの形に裁断し縫い合わせていきます。読者の皆さんはすでにご存じと思いますが、私は大変不器用です。針と糸を持つのも久しぶり…
丁寧に返し縫でと言う先生の言葉にドキドキです。忌まわしい家庭科の授業が思い出されますが、なんとか花びらが完成。中央のしべ部分を囲むように花びらを配置し、葉の部分を取り付け椿の形に仕上げていきます。すみません、見るに見かねてほとんど齋藤先生がお手伝いくださいました(笑) 読者の皆さんはしっかり頑張りましょう!
巾着の飾りのほか、自由に飾りを3つ選び、赤い糸に縫い付けます。出来上がったつるし飾りは巾着、草鞋、猿、柿、椿。願いはお金と健康という、つるし飾りの完成です。
大切なことは、飾りの意味を知り、家族のために願いを込めて作ること。その願いが伝統工芸という形で長きにわたり土地に伝わってきたかと思うと、感無量です。
ご当地楽・椿油づくり体験とご当地部屋
伊東市の花木として愛される椿。温暖な伊東では秋の早咲きから春の遅咲きまで約10か月もの間、花が楽しめるそうです。そこで椿油を搾る体験です。椿の実の殻を割り、搾油機に入れてハンドルを回しぐっと搾ります。10粒ほどの椿の実から絞り出されるのはわずか小瓶半分ほど。精製していない椿油はナッツの香りがします。酸化が早いので、滞在中、入浴後などの手足や髪、爪などに馴染ませて使い切ります。
「界 伊東」では客室や館内のいたるところで伊豆在住の作家の作品を楽しむことができます。「伊豆花暦の間」と名付けられたご当地部屋には、季節の草花で染めた糸を使った花暦スクリーンや季節を描いた切り絵、木漏れ日行灯などがあり、落ち着いた風情を演出。8名まで宿泊可能な特別和室には、つるし飾りも飾られています。全30室の客室には、露天風呂付きや愛犬ルームもあり、居心地の良さを実感、まったりとした時間が過ごせます。
圧倒的な温泉の良さ、そして伊豆の三大美食
「界 伊東」の圧倒的な魅力は、温泉。温泉旅館ですから当たり前?いえいえ、4本の源泉から毎分600ℓという湯量な湯の恵みは、大浴場はもちろん、客室の風呂、プール、足湯、さらにシャワーも温泉、しかもすべて源泉かけ流しなのです。なんという贅沢!
泉質はナトリウム・カルシウムー塩化物・硫酸塩泉で、弱アルカリ性という美肌の湯。肌触りがよく湯上がりはさっぱり、その後徐々に体がポカポカという、なんとも理想的な温泉です。広々とした露天風呂で手足を伸ばせば、心まで解放されるようです。東京からたった1時間30分でこの気持ちよさ! まさに極楽極楽!
そして、温泉のことをもっと知りたいという方はぜひ「温泉いろは」にご参加を。伊豆半島の成り立ちから、江戸幕府将軍に愛された歴史や文人墨客らによって花開いた温泉文化など、湯守から伊東温泉について詳しい説明があるほか、効果的な入浴法も教えてもらえますよ。
夕食は山海鍋会席。金目鯛の先付から始まり、お造りには伊勢海老、焼き物は鮑と、伊豆の海の幸が次々と運ばれてきます。台の物は、金目鯛と牛肉を2種類のスープで味わう山海鍋。最後は椿に見立てた特製甘味、淡雪チーズがなんとも愛らしく、満腹満腹。
朝食では、鰺のなめろうを使ったまご茶漬けが登場。まご茶漬けは伊豆の郷土料理のひとつで、船上で食べられていた漁師めし。鮮度の良い鰺のたたきをご飯に乗せてお茶やだし汁をかけてさらさらといただきます。まずは鰺のなめろうだけを味わい、次は薬味とともにご飯に乗せて、最後は出汁を注いでまご茶漬けに。朝からご飯のおかわりとなりました。
伊豆の地の利を活かし、地域の魅力を発信
「界 伊東」は2018年に大浴場や全室をご当地部屋にリニューアルしました。かつて「いづみ荘」という老舗の温泉旅館だった施設、その名残は格式ある玄関の門構えや広々としたラウンジ、季節を感じる日本庭園などに感じ取ることができます。「伊東は気候が温暖で、四季を通して様々な植物が楽しめます。それを花暦としてお客様に楽しんでいただけるようにしています。伊豆の自然や豊富な温泉をもっとアピールしたいと思っています」と、2023年3月から総支配人に着任した久保貴弘さんは話します。確かに避寒地として、温泉リゾート地として伊東はうってつけです。
そして「界 伊東」から歩いて15分ほどのところにもうひとつの界、「界 アンジン」があります。こちらは海に面する船旅気分を味わえる宿。2つの施設で業務連携やスタッフの交換留学も行なっているそうです。つるし飾りをはじめ、地域の文化の発信拠点としてさらに進化していきたいと、語ってくれました。私も久しぶりに訪れた伊東温泉。歴史ある温泉地の底力を再認識した旅でした。
界 伊東
住所:静岡県伊東市岡広町2-21
電話:050-3134-8092(界予約センター)
料金:1泊3万1000円~(2名1室あたりの1名料金、サービス料込み・税別、夕朝食付き)
URL:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiito/
取材・文/関屋淳子 写真/yOU(河崎夕子)