第81回 同じ部屋に泊まっていつでも一緒! 三世代で楽しむ温泉滞在「界 伊東」(静岡県・伊東市)

夏休み序盤の週末、旅恋のファミリー旅担当の多田が「三世代みずいらず旅プラン」を体験してきました。「三世代みずいらず旅プラン」とは、近年、シニア世代の楽しみのひとつとして人気が高まっている「孫と一緒にレジャーや旅行を楽しむこと」に焦点を当てたプラン。三世代が同じ部屋に泊まり、一緒に思い出をつくるための仕掛けが盛り込まれたもので、今回私が伺った「界 伊東」のほかに、同じ静岡県の「リゾナーレ熱海」、栃木県の「界 川治」の三施設で実施しています。


源泉プールと芝生の庭を備えた「界 伊東」。ファミリー利用にも最適な温泉旅館です

「界」は「王道なのに、あたらしい。」をテーマにした星野リゾートの温泉旅館ブランドで、全国に20施設を展開しています。私自身が「界 伊東」にお伺いするのは今回で3回目。以前の訪問では、それほどファミリー利用が多い印象は受けていなかったのですが、今回は夏休みという時期もあり、家族連れがほとんど。聞けば、首都圏からの利便性の良さもあり「界」のなかでもダントツで家族連れが多く、なかには四世代旅のご利用もあるとか。つまりはそれだけ、ファミリー旅に自信ありの温泉旅館なのです。

すごろくに卓球! 広い客室の一緒に泊まれるから思い出作りも楽々

チェックインを済ませて客室に案内されるなり、家族全員が「わぁ~!広い」と沸き立ったのが、「三世代みずいらず旅プラン」最大の特徴でもある広い客室。和室というと多くは4名定員で、三世代で旅行しても、おじいちゃんおばあちゃんとは別の部屋、ということがほとんど。一緒に過ごすために片方の部屋に集まると、手狭で落ち着かないということもままあります。しかし一方で、シニア世代も寝るときだけは静かに休みたい、という声を聞くことも。
「界 伊東」の三世代向けの特別和室は、そんな悩みをすべて解決する広いリビングと、4名ずつのベッドルームが2室からなる8名定員なので、みんなで一緒に過ごしつつも、寝るときはそれぞれの部屋で、という程良い近さが魅力です。


8名定員の「伊豆花暦の間特別和室」。三世代みずいらず旅プランでは、テーブルが卓球台に!


ベッドが4台並んだベッドルームが2室ついてます。ベッド上のパネルは天城山をイメージ


伊豆稲取の雛飾り「つるし雛」が伊豆らしい温もりを伝えます。さまざまな意匠があるので見飽きません

リビングには大人数でもゆったり座れるソファがおかれ、天井からは伊豆の伝統工芸品の「つるし飾り」がさがり、そのつるし飾りをモチーフにした巨大クッションが配されたコーナーもあります。赤ちゃんや小さなお子さんならキッズスペースとして利用できますし、大人もクッションにもたれて足を延ばして座ることができます。


伊豆在住の染色家・石丸みどり氏の「花暦スクリーン」。
伊豆の椿や河津桜など約20種の植物で染められた糸が模様を織り成します。


伊豆修善寺の切り絵作家・水口千令氏の「木漏れ日行灯」。草花がかたどられた行燈は季節ごとに変わります。

「界 伊東」の客室は全室が伝統工芸や文化を取り入れたご当地部屋「伊豆花暦の間」として、「花暦スクリーン」や「木漏れ日行灯」など地元の作家さんが手掛けた作品がしつらえられています。家族利用の多い宿というと子供の破損事故などを考慮して、どうしても客室が簡素になりがちですが、四季や文化を感じられる作品がちりばめられた部屋は、大人も寛げる温かみがありますし、子供が和文化に触れるチャンスにもなりますよね。


和裁が趣味の母は、滞在中幾度もつるし飾りを手に取り、その意匠や縫い方を研究していました。


伝統的なつるし飾りにはない白の椿。「界 伊東」開業の際に、地元の作家さんと相談して生まれた淡色系のつるし飾りです。


館内のいたる所に水口氏の作品が飾られ、伊豆の風物詩を演出しています。


エントランスの大きな生け花は、地元の池坊の先生が生けたもの。
スタッフはその手ほどきを受け、館内にはたくさんの生け花が飾られています。


季節を感じさせるオブジェは二十四節気七十二候に基づいて、スタッフ自ら準備して入れ替えています。

三世代旅といっても、久しぶりに会う祖父母と孫の場合、なかなか打ち解けて話をするのが難しいこともあるかもしれません。そんな時に一役買うのが「思いだすごろく」。お正月や入学式、運動会など四季のイベントをたどっていくストーリーのオリジナルすごろくで、マスに留まるごとにそれぞれの思い出を披露する仕掛けになっています。なかにはバレンタインデーやホワイトデーの思い出を語るマスもあり、知られざるエピソードが飛び出すことも。自然と会話が弾み、笑いが生まれます。我が家も「ええ!そんなことがあったの!」と驚いたり、爆笑したりでした。


大きなサイコロを振るのも楽しくて、ゲームがどんどん進みます。

そして息子と元卓球部の夫、テニスが趣味の父が夢中になったのは、「三世代ピンポン」。リビング中央のテーブルが円形の卓球台になっており、通常のラケットのほかに、約3倍サイズのビッグラケットと約1/2サイズのミニラケットがあるため、難易度を工夫できるのが三世代で楽しめるポイント。


「界 伊東」の卓球台には椿が描かれ華やか。3種のラケットがゲーム性を高めてくれます。


大きなラケットは両手でないと持ちきれない重さがあり、それがまた笑いを誘います。


夏休みのゲーム時間をめぐる息子と母の戦いも勃発! もちろん私が勝ちましたよ!

50年ぶりにラケットを握ったという母も参戦し、そこそこのラリーを展開したのには、みんな大盛り上がり! 「おばあちゃん、けっこうやるね!」と息子もびっくり。娯楽室などに本格的な卓球台があっても、なかなか三世代で楽しむことは難しいですが、客室にこんな気軽なピンポンがあれば、なんとなくやってみようかなと思えます。そして卓球を楽しむチームとクッションを抱えてトークに花を咲かすチームが共存できる客室の広さは、まさしく三世代旅仕様。世代の差、趣味の違いを超えて、同じ空間にいられる喜びを享受することができました。

日本の文化に触れる「ご当地楽」で椿油づくり体験に挑戦

ひとしきり客室を楽しんだ後は、地域の伝統文化に触れる「ご当地楽」に参加しました。今回の滞在で、息子にぜひ体験してほしいと私が望んでいたのが「ご当地楽」の椿油づくり体験です。椿の実から油がとれるのは理解しているものの、実際にどのくらいの油が搾れるのか、ぜひその目で見て、学んでほしいと思っていました。


息子が成長し、大人と共にワークショップに参加できるようになったことに、この旅で気がつきました。


椿油は小瓶に入れて部屋に持ち帰り、滞在中、手足をケアして使い切りました。おかげでツルツルです!

伊東の市の花でもある椿は、西日に弱く潮風に強いのが特徴。その特性に適した地である伊東は、昔からたくさんの椿が植えられてきました。また海をはさんだ伊豆大島では、椿油づくりが盛んに行われており、古くからから食用、薬用、髪や肌のお手入れ用として親しまれてきた歴史があります。そんな背景を聞いてから、実際に椿の実の殻を割り、搾油機に入れて搾ります。百聞は一見に如かずの言葉通り、両親も息子も「本当に油がでてきた!」と感心しきり。夫が試しにヒジに塗ってみると、スーっと浸透してしっとりスベスベになり、「これは効くね」と全員で納得。三世代が並んで学ぶ経験も初めてで、良い思い出になりました。

1泊でも元気になれる! 秘訣を学んで温泉入浴


できるなら明るい時間に入りたい大浴場。露天風呂の石組が水鏡に映えて、とってもキレイなんです!

毎分34,000リットルもの湯量を誇る伊東温泉。「界 伊東」では4本の源泉を所有し、大浴場はもちろんのこと、客室、源泉プール、足湯などでその恵みを楽しむことができます。せっかくお湯を楽しむなら、入浴の前にぜひ参加してほしいのが「温泉いろは」です。効果的かつ楽しい湯治方法を学べる簡単な講座で、湯上り処で毎日開催されています。本来1週間からそれ以上の期間を温泉に滞在して療養するのが湯治ですが、忙しい現代人にはなかなか難しいこと。「界」では1泊2日でも湯治効果が得られるよう、ガイド役の「界の湯守り」が入浴法や呼吸法を教えてくれます。


呼吸法は滞在中なるべく意識して実践してみました。ちょっと体に良いことしてるな、という気持ちが重要です。

クイズを交えながら10分程度でポイントを抑えることができるので子供でも参加できますし、参加者には界の湯めぐりが楽しくなる「お湯印帳」がプレゼントされます。お湯の特質や浴後感、旅の記録が書き込めるもので、コンプリート欲をかき立てる楽しいスタンプ帳です(売店で販売もしています)。界といえばアメニティを包む風呂敷を集めている方が多いと思いますが、もうひとつ集める楽しみが増えて、ますますファンが増えそうです。

湯上がり後には夏ならではのさらなるお楽しみを

湯上りに楽しみにしていたのが、「至福の湯上がりビール」と「ご当地かき氷」。いずれも界全施設共通のイベントで、それぞれの地域の特色を活かしたラインナップが特徴です。


金目鯛の旨味を爽やかなビールで流し込んだら、もう「プハァー」と至福の一声しか出ません。

「至福の湯上がりビール」は、湯上がりに最適な味わいのビールで、界でしか飲めないレアなもの。伊東では、金目鯛かまぼことあわせて提供されます。レモンの香りが爽やかで苦味を抑えた喉越しの良いビールに、夫もご満悦。かまぼこは金目鯛の旨味を味わえる柔らかめのホロホロとした食感で、伊東駅前のかまぼこ店のもの。ここでも“地元”を知ることができます。伊豆半島は金目鯛の漁獲量日本一であり、金目鯛を味わうことは、伊豆旅の楽しみのひとつとも言えますから、早速の口福です。


このひとときを楽しみにしていた夫。良い笑顔が出ました! 苦味控えめで飲みやすく、スーッと喉を通ります。

「ご当地かき氷」は私も楽しみにしていた一品。ふんわりと削った純氷に、ミルクとリンゴとみかんのシロップで、伊豆の夏の花である白いみかんの花、オレンジ色のキンシバイや桃色のアベリアを色でイメージしています。使用している氷は、2021年よりコロナ禍で売上の減ってしまった氷屋さんを応援する目的で純氷を使用し始めたとのこと。今年は足湯と組み合わせて頭寒足熱で健康を目指す養生的側面もプラス。美味しい上にちょっとカラダに良いことも、という嬉しい欲張りスイーツです。
実際に足湯に入りながらかき氷を食べると、足元はぽかぽかですが、頭はすっきりして、血の巡りが良くなった気分。量も程よく、ふんわりとした純氷なので頭がキーンとしないので、お子様もシニアも手を伸ばしやすい一品です。


こちらも喉越しがよく、スーッと溶けて消えてしまいます。純氷の美味しさも楽しめる一品です。


足湯が目の前の湯上り処。湯上りドリンクやアイスキャンディーが無料で振る舞われ、つい立ち寄ってしまう憩いの場所です。


息子も幾度も通っていました。お目当てはもちろん、コレ! 夏は大人もついつい氷菓に手が伸びます。

金目鯛、伊勢海老、鮑に、朝はなめろう! 伊豆の海の幸をたっぷり楽しめる食事

温泉入浴と卓球でおなかの虫が鳴きだしたころ、待ちかねた夕食に。食事処はすべて個室~半個室になっており、コロナ禍でも安心して食事を楽しめます。今回は伊豆の三大美味「金目鯛・伊勢海老・鮑」を堪能する特別会席を堪能しました。
先付は「金目鯛のスモーク 明日葉巻き」。スモークした金目鯛で明日葉を巻いて、ニューサマーオレンジのジュレにのせて椿油をひと回ししたもの。「界」ではその地域で親しまれている素材を、驚きの組み合わせや新鮮な調理法で楽しむ「ご当地先付」に力を入れており、サプライズから夕食が始まります。


先付「金目鯛のスモーク 明日葉巻き」。香ばしさとほろ苦さが広がり食欲を刺激します。


八寸とお造り、酢の物が一緒に盛られた宝楽盛りは、字の通り、海幸・山幸の盛り合わせの中から、宝探しのように
好みに合う味を探して欲しいというもの。私はふきの胡麻酢かけと、トマトと海老の琥珀寄せが気に入りました。


カンパチ、金目鯛、真鯛の刺身に、奥は伊勢海老のお造り。金目鯛と伊勢海老は戸田の塩が甘みが引き立てます。


焼き物と台の物は目の前で仕上げてくれます。「鮑の陶板焼き」はバター醤油でソテー。


台の物の「金目鯛の椿蒸し」は、ふっくらと蒸しあげた金目鯛に、熱した椿油を目の前で回しかけます。
半身ずつ取り分けてくれるのですが、その盛り付けも美しく「キレイに仕上げるね」と給仕の技にも息子は着目。


平塚在住の作家さんの一点ものの土鍋で炊かれたご飯は、米粒がキレイに立っていて、一同感動!


食事を終えていた息子も、炊きたてご飯に再度お替り。その味わいに感動していました。

一方、小学5年生の息子には年齢にあった和食膳が用意され、ご飯をお替りしながら完食していました。年齢に合うものを出してくれるのは、ありそうでないサービス。特に大人と同じでは量や食材、味付けの面で難しく、かといってハンバーグにから揚げのお子様メニューでは納得しない年頃だけに、食文化も大切にする界の子供の食へのこだわりに感心しました。


お刺身に天ぷら、豚の角煮、鮭の柚庵焼きなど、ご飯にあう品々が並んだ、息子用の和食膳。

夕食後もピンポンラリーが続き、息子はこのまま寝てくれないのでは…と不安にもなりましたが、ようやく訪れた大人の時間。「三世代みずいらず旅プラン」では、孫が寝た後に大人が語らうひと時のための「大人のおつまみセット」が用意されています。リビングがあるからこそできる、お楽しみでもあります。
味付けをしたアーモンドのスナックと3種類のビールで乾杯すると、少し時間の流れがゆっくりになり、落ち着いて会話をすることができます。ひたすらに孫と遊ぶだけでなく、息子、娘との会話の時間も持つことができるのは、お互いにとっても幸せですよね。


「大人のおつまみセット」があるおかげで「もう少し話そうか」という雰囲気に。ありがたいひとときでした。


芝生の庭がストレッチ会場に早変わり。多くの人が参加していて、夏休みのラジオ体操を思い出しました。

翌朝は、芝生の庭で「界の湯守り」によって行われる「現代湯治体操~庭のひだまり散歩体操~」に参加し、深呼吸とストレッチをします。昨日の「温泉いろは」も思い出しながら、体をほぐしていきます。これにより、朝食に備えてのお腹のコンディションはばっちり。
前日の夕食がよほどおいしかったのか、朝食のメニューを確かめていた息子は、母から鯵のなめろうを分けてもらい、まご茶漬けにして舌鼓。つられて父も夫も食が進み、三世代旅なのにお恥ずかしいですが、お櫃のお替りをしました。


鯖の柑橘みりん干しやちんちん揚げなど、伊豆らしい献立の朝食。


まご茶漬け用の出汁が温められ、自分で自由に熱々のお茶漬けを楽しめます。


そのままでも充分美味しいなめろうは、お茶漬けにしたらさらに美味。朝からお替り連発でした。

夏祭り気分を楽しむ「温泉花あそび」に参加

朝食後は夏のイベント「温泉花あそび」に参加します。チェックアウト時間が12時と遅いため、午前中もアクティビティに参加でき、慌ただしくないのが助かります。
コロナ禍により久しくお祭りの雰囲気に触れていなかったので、縁日風の飾りつけに子供も大人も心が浮き立ちます。お孫さんが小さければ小さいほど、懸命に遊びに取り組む姿をカメラやビデオで納めたくなりますが、我が家は息子のリクエストにより、祖父母も一緒に楽しむスタイルに。せっかくの三世代旅ですから、一緒に遊んでみるのもおすすめです。


「花すくい」は生花と造花が浮かべられたたらいから、金魚すくいのようにポイでお花をすくうもの。
とても色鮮やかでワクワクしますし、金魚のように逃げないので小さな子供でも楽しめます。


「花わなげ」は台に置かれた6つの桶に、椿の花のように真ん中に黄色、まわりに赤色の花輪を
投げ入れるルール。投げる位置で難易度を変えることができるのですが、なかなか難しい!


「源泉でっぽう」は、水鉄砲で的を射抜いて裏返していく遊び。イマドキの水鉄砲ではなく、昔ながらの竹製の水鉄砲は、
父に軍配ありの様子です。


「花たらい乗り」は、伊東の街を流れる松川で毎年7月に行われる「松川タライ乗り競争」を模したもので、
花をあしらったたらいに乗り込み、しゃもじのような形の櫂で水を搔いて進みます。
不安定なたらいに乗って漕ぐのはスリリングで、これは息子も苦戦していました。

「温泉花あそび」を楽しんだ後は、そのまま源泉プールで遊びます。息子・夫・父の三世代で競争し、すっかり泳ぎがうまくなった息子の成長ぶりには一同驚きました。コロナ禍でスイミング教室の見学すら禁止となっている今、子供がどこまで成長したかは親ですら知らないこともあります。ついこの間まで小さなプールでちゃぷちゃぷと遊ばせていたのになぁ、と父は嬉しいような寂しいような複雑な表情。だからこそ、たまには三世代で旅をしなければと思いました。家族のきずなを深め、それぞれの成長と老いを確かめながら、自然と手を差し伸べあうことができる旅を、これからも楽しんでいきたいと願った1泊2日でした。


またみんなで来ようね、と約束。それぞれに楽しい思い出ができた旅となりました。

界 伊東
〒414-0016 静岡県伊東市岡広町2-21
0570-073-011(界予約センター)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiito/
1泊2食付き 31,000円~(2名1室利用時1名あたり、サービス料・消費税込み)
特別和室の場合は 41,000円~(2名1室利用時1名あたり、サービス料・消費税込み)

(取材・文/多田みのり)

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