第72回 観光と自然保護の両立とは。日本初のエコツーリズムリゾート「星野リゾート 西表島(いりおもてじま)ホテル」で世界自然遺産を考える (沖縄県・西表島)

タイトルがカタい!カタすぎる!(心の声) 

どこまでも広がる青い空と海、そして美しいビーチ。シュノーケリングやダイビングで日本最大といわれるサンゴ礁域を楽しんだり、マングローブ林のジャングル探検、夜は満天の星を眺める……あそびの宝庫とも呼べる西表島。でもね、島に入るには、それなりの自覚も必要なのです。

 

歯ブラシ、マイボトル持参!離島旅のSDGs(持続可能な開発目標)を

石垣港からフェリーで約50分、西表島の北部に位置する「西表島ホテル」は、201910月からリブランドオープンした施設。全139室という西表島最大規模のリゾートホテルです。エコツーリズムリゾートを目指すホテルとして、20216月から歯ブラシや髭剃りなどのワンウェイアメニティの提供をやめ、8月からはペットボトル飲料の販売をやめました。このゼロ・エミッションを目指すため、ゲストにも歯ブラシやマイボトルの持参を呼びかけています(レンタルボトルやゴミにならない歯ブラシも用意)。

 

チェックイン時には、島を楽しむマナーを知るインフォームドチェックインを実施しています。具体的には、イリオモテヤマネコの交通事故を防ぐために島内での車の移動は時速40㎞で、自分のごみは持ち帰る、野生動物には光を当てない・餌を与えない、植物などの採集や持ち帰りはしないなど。日本最後の秘境と称される島を護るのも荒らすのも私たち次第なのです。

 

「お客様の65%が歯ブラシを持参してくださいます。ご不便をおかけする分、無料のネイチャーツアーなどのサービスでお返しをしたいと考えています。エコロジカルな運営・島の魅力を伝えるネイチャーツアー・イリオモテヤマネコの保護活動を3本柱にして、島民の方と連携をとった地域に根差したホテルを目指しています」と話す総支配人の細川正孝さん。

 

2021年夏、西表島を含む琉球諸島4島が世界自然遺産に登録されたことを受け、「世界遺産」という共通認識が島の中で広がっていると言います。海外では、自然環境を守りながら観光資源としてのダイナミックな自然を楽しむエコツーリズムが盛んに行われています。例えば西表島でも入島(入域)制限や保護のための入島税の導入をしながら、卓越したネイチャーガイドとともに素晴らしい世界自然遺産の本質や価値を知る滞在ができれば、島を訪れる魅力は何倍にも膨らむことでしょう。

ガジュマルの大木

20217月から始まったのがホテルスタッフによる「イリオモテガイドウォーク」。ジャングルコースとマングローブコースがあり、ホテル敷地内にあるジャングルや月ヶ浜、マングローブ林を巡るアクティビティです。昆虫や植物などの得意分野があるスタッフが島の豊かな生態系を教えてくれます。

そのひとり、比佐雅宏さんのガイドでジャングルへ。土台となる樹木を枯らして大きくなるガジュマルやタカサゴシロアリの蟻の道、付着根で樹幹に付着するハブカズラなど、様々な植物の生き残る知恵と戦略を楽しみました。

イリオモテガイドウォークは1日5回、約45分、無料

左はタカサゴシロアリの蟻の道、右は幹に付着するハブカズラ

 

さてホテル客室は長期滞在にも向く広々とした造りで、アジアン風のツインのほか、ロフトベッドのあるファミリー向けも用意。食事は朝夕共にビュッフェで、趣向を凝らした料理が並びます。泡盛などのアルコールも飲み放題!嬉しい~ 朝は黒糖フレンチトーストがおすすめ、さらに昼食はテイクアウトできるランチも用意されています。

デイベッドのあるアジアンテイストの客室

夕食のビュッフェ 飲み放題!

ホテル前のビーチ・月ヶ浜では夕日とスパークリングワインを楽しむサンダウナーも開催されています。

こんな夕景が楽しめます(星野リゾート提供)

イリオモテヤマネコの痕跡を探してみよう!

毎晩715分からホテルロビーで開催されるのが「イリオモテヤマネコの学校」と「世界遺産の学校」のプログラム(日替わり開催・無料)。素朴な何故、どうして?という疑問をわかりやすく解説してくれます。

ここでしっかりイリオモテヤマネコの知識や生態、ロードキル(交通事故)防止の活動を知り、翌日は島のナチュラリストガイドとともに「イリオモテヤマネコ痕跡ツアー」に出かけます! 

 

ガイドはイリオモテヤマネコを愛しすぎる男、中山さん。ロードキルを防ぐため歩道の草刈りをして見通しをよくし、365日夜のパトロールを欠かさないというつわものです。それでも今年はすでに5件のロードキルがあったそうです。

イリオモテヤマネコの魅力は野生のカッコよさとネコ科の可愛さと話す中山さん

 

特別天然記念物であるイリオモテヤマネコは島に100頭ほどが棲息し、ネズミや猪などの哺乳類から鳥類、爬虫類、両生類など、つまり何でも食べて生きています。イリオモテヤマネコと競合する肉食哺乳類がいないため、この島での生態ピラミッドの頂点に君臨しているのです。

ですので天敵は交通事故。音と振動で危険を知らせるための道路のゼブラゾーン、さらに道路の側溝は浅いV字や片勾配になっていて、小さな動物が道路に出ないような仕掛けも施されています。レンタカーで島内を巡るときは、時速40㎞を守ってください!

また島にはイリオモテヤマネコが安全に歩くためのアンダーパス(動物用のトンネル)が123か所設置されています。

中山さんとイリオモテヤマネコが痕跡を残しそうなところを辿ります。普段は夜行性で田んぼや湿地、水辺などの獲物が多い場所で見つけることができるそうですが、寒くなると日中でも見ることができるとのこと。イリオモテヤマネコを警戒するけたたましい鳥の鳴き声が聞こえたら、近くにいる可能性も高いそうです。

ひと目お姿を見たかった!(星野リゾート提供)

この日は糞のほかに、田んぼで足跡を発見! 本物には出会えませんでしたが、次回のお楽しみということで。

イリオモテヤマネコ痕跡ツアー 12回、約2時間30分、ひとり5000

足跡発見!

冒険心が止まらない!浦内川のカヤックやジャングルクルーズ

夕暮れ時、ホテルのすぐ横を流れる浦内川河口をカヤックで楽しむ「夕暮れマングローブカヤック」。カヤックが初めてでも安心して楽しめるアクティビティです。

西表島は島の90%が亜熱帯の原生林で覆われ、日本のマングローブ林の25%を有しています。そこには絶滅危惧種を含めた多種多様な動植物が生き、豊かな自然環境がつくられています。カヤックで進むと、ヤエヤマヒルギやオヒルギ、メヒルギといったマングローブ(マングローブは総称です)を間近で楽しめ、ゆったりとした気持ちになります。あいにくの雨模様で美しい夕景は望めませんでしたが、雨もまたよし。

夕暮れマングローブカヤック 夕暮れ時間に合わせて、13歳~703960円ほか

 

雨の多い西表島は河川が豊富です。最大河川・浦内川の上流から2つの滝を目指す「浦内川ジャングルクルーズ」へ。まず浦内川遊覧船(2200円)で8㎞先の上流へ向かいます。西表島には海水・河川の淡水・そして両方が混ざる汽水域があり、マングローブは汽水域に生育、魚類ももちろん豊富です。河川沿いにはかつて集落があり、マングローブは建材や炭などとして島の暮らしの中で使われていました。

オヒルギの仲間は膝根(しっこん)という根を発達させて成長します。アニメチックなちょっと不思議な風景ですよ。

 

船を降り、日本の滝100選に選ばれるマリユドゥの滝と神の座を意味するカンビレーの滝を目指してトレッキングです。岩場やぬかるみはありますが整備された山道を進むと、鬱蒼とした密林のなかで様々な動植物に出会います。サキシマスオウノキの巨大な板根、白い花に青い実をつけるルリミノキ、名前のわからぬ綺麗なタニシ、可愛いトカゲちゃん…。

そして目の前に現れる迫力ある滝! ジャングルを満喫です。

左上サキシマスオウノキ、右上綺麗なタニシ、左下カンビレーの滝、右下マリユドゥの滝

 

「西表島ホテル」では年齢や興味に応じた様々なアクティビティが用意されています。何もせずにただ海を眺めているだけでもいいのですが、なにかしらに参加すると、世界自然遺産の面白みをかじることができると思います。レンタル用品も整っていますので、気負わずにまずはこの島の多彩な魅力を覗いてみてください。興味を持つことが島を守ることの第一歩になるのではないでしょうか。

ファミリー向け記事はこちら

 

「星野リゾート 西表島ホテル」

大人1泊朝食付き2名利用時の1人料金14,000円~

 

取材・文/関屋淳子 撮影/yOU(河崎夕子)

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