第71回 「界 日光」で社寺修復に携わる文化財修復士から教わる!日光彩色体験(栃木県・日光)

中禅寺湖に臨むおよそ3000坪ある広大な敷地の中に、たった33室という贅沢さ。「界 日光」が20145月に開業した際、旅恋でその魅力をご紹介しました(→過去の記事はこちら)。

宿から望む早朝の中禅寺湖。右手に見える山裾が男体山。

この星野リゾートの温泉旅館「界」では、地域の文化を継承する職人や作家、生産者の方々を講師に招き、希少な技を間近で見て・体験できる「手業のひととき」というアクテビティを用意しています。界 日光の手業のひとときは、「社寺の修復に携わる文化財修復士と日光彩色体験」。日光東照宮などの修復に携わる文化財修復士で伝統工芸士の伊原実穂さんから彩色の指導を受けつつ、社寺に施される極彩色の意味や装飾について解説を聞くことができる講座です。今年4月にはじまって以来、人気を博しているこのアクティビティを体験しに、秋深まる日光へ足を運びました。

文化財修復士って、どんな仕事?
「社寺の修復に携わる文化財修復士と日光彩色体験」の講師を務める伊原実穂さんは文化財修復士で、地元栃木県では「日光堆朱(ついしゅ)塗」「日光春慶塗」の栃木県指定伝統工芸士という顔もお持ちです。はんなり着物姿で現れた伊原さんは、肩書きの堅さと異なりとってもフレンドリー。講師の人柄も、この講座の人気の秘密です。

ところで、文化財修復士とはどんな仕事なのでしょう。普段の生活でなかなか出会うことがない職業名に、俄然興味が湧きます。
伊原さんは日光生まれ、日光育ち。世界遺産に囲まれて育ち、御寺の付属幼稚園に通うなど、幼いころから日光の社寺に馴染み、修復の仕事を身近に見てこられました。10代の内から研修を受け、20代では早々に文化財の修復に携わり、20代後半からは現場で指揮を取っておられます。
伊原さんの主な仕事は、社寺や仏像の修復。陽明門をはじめ、日光の社寺というと色鮮やかな彫刻が思い浮かびますが、これらを彩色するには鉱物で作られる岩絵の具が使用されているそう。岩絵の具は粒子状で、これに接着剤の役割を果たす液状にした「にかわ」を加えることで画面につくようになるのだとか。「文化財修復の仕事だけでなく、使用する材料や道具は希少なものばかりで、修復の際には“にかわ”をはじめ、それらの生産者の気持ちも背負っています。材料や道具を生産する文化も絶やさないよう大切に・積極的に使い、周知していくことも大切な仕事の一つです。」と伊原さん。遠くからなんとなく全体像を見ていましたが、これからはもっと細部もじっくり観賞したいと思うエピソードです。

いざ、彩色体験にチャレンジ
この日光彩色体験では、寺社修復で使用されるのと同様の道具を使用します。まずは絵の具づくりからスタート。乳鉢で絵の具の粒子を細かくすりつぶし、液状のにかわを少量ずつ加えて丁寧に練り上げます。
絵の具の準備が終わったら、いざ、彩色!体験は、長方形の板材に描かれた絵に彩色する「平彩色」、金箔を使用する「生彩色」、彫刻に色付けする「彫刻作品」の3コースから選べます。この日体験したのは「平彩色」で、宮大工さんに切り出してもらったという板材に描かれた菱花紋に色付けしていきます。ちなみに、使用する板材の種類はその時々でかわるのだとか。この日は比較的軽い杉の板材でした。
伊原さんに彩色の手順を教わり、一色ずつ色をのせていきます。絵心のない私は筆を持つのも久しぶりで、下絵があるとはいえ、なかなかうまく線を描くことができません。褒め上手な伊原さんの言葉に支えられ、ゆっくり塗り進めていきます。
2時間ほどかけ仕上がった作品は、見本と比べると大分異なる仕上がりに。間近で見ていると線がよれているな、太さがまちまちだな、などと欠点ばかり目につきます。「この作品は遠くから観賞するのがいいんですよ」と伊原さんに教えられ、半信半疑で離れて見てみると、あら!味わいある作品に見えるじゃないですか!作品は紫外線と水濡れを嫌うとのことなので、こけしコレクションと並べようと、飾る場所も即決定しました。

手前の茶色の塊がにかわで、液状にしたものを乳鉢に加えて絵の具を作ります。

下絵と彩色行程の見本。

線をなぞり、絵を仕上げていきます。この体験をすると、日光の社寺を見る目が変わること間違いなし!体験のあと、日光東照宮はもちろんですが、徳川三代将軍家光公の廟所・日光山 輪王寺 大猷院(たいゆういん)も訪れてみて。伊原さんは国指定重要文化財である二天門の修復にも携わっていました。

日光彩色体験は2022年2月28日まで開催予定。4日前までの事前予約制で、宿泊の翌日10〜12時に体験できます。この体験を申し込むと、宿泊するお部屋に伊原さんの作品が飾られるという特典も嬉しいポイントです。

伊原さんが描いた龍を観賞しつつ、お部屋でくつろいで。
写真右はお部屋の鍵と、お着きのお茶菓子。キーホルダーも栃木の伝統工芸品で、
お部屋によって異なります(写真は鹿沼組子)。

・手業のひととき「社寺の修復に携わる文化財修復士と日光彩色体験」 1名3,850円〜
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kainikko/activities/4947/

                                                        


「手業のひととき」のほかにも、界 日光で過ごす休日には栃木の魅力が随所に織り込まれています。いくつかご紹介します。

栃木の魅力体感①
トラベルライブラリーであったかスイーツ「いちご羊羹フォンデュ」を
トラベルライブラリー「組子ライブラリー」には、地域の観光情報や歴史・文化、自然にまつわる本が並びます。大きな窓は、鹿沼地方の伝統工芸・鹿沼組子や、日光彫の装飾が施され、その向こうに中禅寺湖のパノラマが広がります。こちらのライブラリーではドリンクが用意されており、自由に飲み物を飲みながらゆっくり過ごせます。

トラベルライブラリーの本は、貸し出し表に記入すれば、お部屋で読書も可能。
「鹿沼組子アクセサリー作り」(写真右)も楽しめます[2,000円、15:00〜21:00]

さらに冬季は「夕焼けといちごの羊羹フォンデュ」(1,500円、数量限定)のサービスも。かわいらしいいちごの形をした益子焼の器に地元の名店・黒須製餡所から取り寄せた餡が湯気を立ててたっぷり入っています。上品な甘さの餡と甘酸っぱいいちごのハーモニーを満喫できます。

器は益子焼、トレイは鹿沼組子。この日のいちごはとちおとめでした。

栃木の魅力体感②
界・名物ご当地部屋「鹿沼組子の間」でくつろぐ
トラベルライブラリーで随所にあしらわれていた鹿沼組子。その始まりは江戸時代、日光東照宮造営のために全国から集められた職人によってもたらされた技術なのだとか。菱形など緻密に木片を組み合わせて模様が形づくられているのですが、釘を一本も使っていないというのですから驚きです。この鹿沼組子をふんだんにあしらったのが、ご当地部屋「鹿沼組子の間」です。建具や照明などお部屋の随所が鹿沼組子で飾られ、コースターまで鹿沼組子でまとめられています。ベッドスローも鹿沼組子をイメージした模様です。

中禅寺湖を一望できるお部屋。鹿沼組子の建具の一部に、いろは坂をイメージした
模様が施されています。ぜひ、探してみて!

栃木の魅力体感③
界 日光のご当地楽「日光下駄談義」のタップダンスに拍手喝采!

かつて、社寺に詣でる際には草履を使用するのが決まりだったそう。しかし、日光は坂道が多く積雪もあるので草履では歩きにくく、不便でした。日光の社寺詣でがしやすいよう竹の皮を編んだ草履の下に坂や雪道で歩きやすいよう下駄の台木がつけられた「御免下駄」が考案されたのは江戸時代のこと。それをさらに改良したのが伝統工芸品の「日光下駄」です。
ご当地楽「日光下駄談義」[21:00〜21:20]では、日光下駄の歴史を紹介したあと、なんとオリジナル振り付けのタップダンスを披露します。日光下駄を床に打ち付け、時にくるりと回転。草履部分は竹の皮なので足裏にぴったりフィットし、激しく動いても脱げることはありません。観客にもそれぞれ日光下駄が配られるので、その履き心地を体感できます。さらに振り付けの指導もあるので、椅子にすわったまま一緒にタップを楽しめます。エントランスにも日光下駄が用意されているので、日光下駄で中禅寺湖散策に出かけるのもおすすめです。

館内のショップでは、日光下駄のセミオーダーメイドが可能。好みの
鼻緒を選べます。現在、日光下駄の職人は4名しかいないそう。手作り
の逸品を手に入れたくなります。

栃木の魅力体感④
湯波づくしの夕食とご当地の地酒飲み比べを
日光の食の名物として真っ先に思い浮かぶ「日光湯波」。かつて日光では山岳信仰が盛んで、多くの修験道者が厳しい修行を積むおり、山中での貴重なタンパク源としてゆばを食べていました。江戸時代に入ると精進料理として一般の参拝客も食するようになったのだとか。
ゆばは豆乳を加熱してできる薄い膜で、「日光湯波」はこの膜をすくい上げる際に膜の中央に串を入れて二つ折にします。一枚仕立ての「京湯葉」に対して、「日光湯波」はふっくらとした厚みが特徴です。
界 日光の夕食では、この「日光湯波」をさまざまな形で味わえます。訪れた日の献立では、先付け、椀物、お造り、揚げ物、そして台の物に日光湯波を使用。台の物では、湯波と和牛を交互に重ねた彩も鮮やかな豆乳ミルフィユ鍋に仕立てられていました。

日光彫に盛られた雲丹湯波ムース。八寸「宝楽盛り」の器には眠り猫などが描かれています。
料理はもちろんですが、オリジナルの器にも注目です。

台の物「湯波と和牛の豆乳ミルフィユ鍋」。写真左のピンク色のキノコは「トキイロヒラダケ」。
その色が朱鷺に似ているのが名前の由来。各々の食材からもお出汁が出て、豆乳スープは深い味わいに。

土鍋ごはん「紅葉鯛の割り地焼き」は、松茸の香りも豊か。
土鍋ご飯を食べきれなかった場合は、お夜食用に折り箱に詰めてくれるサービスもあります。

この日光湯波づくしの夕食に合わせたいのが、地元の日本酒。栃木県に30以上ある酒蔵から厳選した地酒をご用意しています。おすすめの「地酒のみくらべ」なら、その時季とっておきの地酒3種類の飲み比べができます。湯波料理とのマリアージュを堪能しましょう。

この日の「地酒のみくらべ」は、大那 特別純米酒 ひやおろし、
姿 純米吟醸原酒 艷すがた、仙禽 無濾過原酒 赤とんぼ。


栃木の魅力体感⑤
広々とした貸切風呂で、贅沢な湯あみタイム
界 日光の温泉はアルカリ性単純温泉で、透明でくせがなく、肌ざわりもやわらか。2020年に新たにはじまった貸切露天風呂では、温泉を独り占めできます。

この貸切露天風呂がまた贅沢な空間。東屋風の造りになった湯船は、大人5〜6人で入っても十分な広さ。洗い場は屋内なので、寒くなるこれからの時季も快適に利用できます。脱衣所には椅子が置かれており、湯上がりに冷えたソフトドリンクを飲みながらリラックスできます。
・貸切風呂の利用:チェックイン後要予約。1組1時間3,300円。

 
栃木の魅力体感⑥
屋根なし2階建バスでいろは坂の紅葉めぐり

2020年秋に始まった屋根のない2階建バスを活用した「紅葉オープンバスツアー」。当初は鬼怒川・川治温泉エリア「五十里(いかり)・川治ダムルート」の運行のみでしたが、今年は日光屈指の紅葉スポット・いろは坂を走る、界 日光発着のルートが仲間に加わりました。
つづら折りになったいろは坂は一方通行で、中禅寺湖前から出発するバスはいろは坂の下りと上りをぐるりと走り、中禅寺湖へと戻ってきます。早朝6時30分出発なので、渋滞知らず。日中のにぎわいとはまた異なる風景を楽しめます。バスガイドが同乗するので、いろは坂の歴史や見所などを知ることができるのも魅力です。
いろは坂はバイクや車で何度か走ったことがありますが、バスは初めて!しかもオープンエアーとあって、後ろ、真ん中、前??どこに座るか悩みます。バスガイドさんに聞くと最前列がおすすめだそう。ということで、一番前の席に陣取りました。
いろは坂は48のカーブがあり、どれもRのきついヘアピン状なので、バイクや車でも一苦労な道です。そこを2階建バスが走ると、さながらジェットコースターのよう!一番前の席なので、窓いっぱいにぐいんぐいんとカーブが迫ってきて、迫力満点です。バスは2階建とあって、眺めも良好。日光連山を代表する男体山の山容もよく見えます。中禅寺湖は標高およそ1300m、麓の馬返しは標高850mほどと標高差があるので、紅葉の見頃の時期も異なります。道すがら、色づきの違いを見るのも楽しみです。2021年の「紅葉オープンバスツアー」は11月7日まで。来年、ぜひ体験してみてください。

2階建バスなので、道路の看板も近い!屋根がないので頭上に色づいた木々を望めます。
日光の秋の早朝は冷えるので防寒対策は必須です。

                                                                     


伝統工芸、食、温泉。界 日光では、お宿にいるだけで栃木の魅力をさまざまに堪能できます。お部屋からみる中禅寺湖や、男体山をはじめとした雄大な山並み。これからやってくる冬には、真っ白な雪に包まれて水墨画のような風景に変わります。一方で日光彩色体験は極彩色の世界。この冬、彩りのコントラストを愛でる日光旅へ出かけませんか?


界 日光
予約TEL0570-073-011(界 予約センター)
料金:1泊2名1室の場合、夕・朝食付き1名あたり2万5,000円〜

取材・文/川崎久子

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