東京から北陸新幹線で約1時間、日本有数のリゾート地である軽井沢に佇む「星のや軽井沢」。涼やかに流れる川、四季を感じる庭、水辺に囲まれた客室など、「谷の集落に滞在する」をコンセプトとした滞在型リゾートです。日常から少し距離をおいた自然の中に身を置いて行う2泊3日のウェルネスプログラム「森林養生」がリニューアルされたとうかがい、体験しに行ってきました。
“一度は泊まってみたい憧れの宿”としても度々名前があがる星のや軽井沢の「森林養生」ですから、緑の中での~んびり過ごせるのかな?と思い込んでいた私。待っていたのは、日頃の不摂生を実感してしまう現実でした。そもそもこのプログラムが開発された背景は、「軽井沢野鳥の森」と「星野温泉」を舞台に、心身のバランスを調えて健幸になること。特にWith コロナ時代では、森林パワーウォークなどが加わり、「肺機能を強化して免疫力向上を目指す」内容へとパワーアップしました。
森林養生は、まずはコンサルテーションや身体の状態チェックから始まります。身体にいい黒豆茶をいただきながら、コンサルティングシートをチェックし、生活習慣や運動量について答えていきます。ですが、暑くなってからほぼ運動しない毎日を送っている上にデスクワーク中心なので、質問への答えも歯切れが悪くなっていきます・・。
でも、今回のプログラムで興味深いポイントが、安静時・歩行後・ポールを使った歩行後などに、動脈酸素飽和度や心拍数などを測定すること。初めてパルスオキシメーターを使いましたが、機械の誤差を含めて95~99%が正常値のところ、私は98~99%と安定していたので、ひと安心です。
次に、ウォーキングする上で大事な深呼吸と歩き方のレクチャーです。歩き方の動画撮影をしてもらいながら、本来あるべきキレイな姿勢や歩き方を習います。滅多に自分の歩行を撮影してもらうことはないので、自分のクセをまざまざと見せつけられます(笑)。このようにしっかり計測やレクチャーを受けることで、今回のプログラムが単なるリラクゼーション目的だけではないことを実感し、身が引き締まります。
いよいよウォーキングの開始です。まずは星のや軽井沢の集落内の周りから。歩幅を広く(身長からマイナス100cmが理想)、両手をしっかり振って、視線は15~20m先に固定し、深呼吸をしっかりと行います。集落内は下り坂、ゆるやかな上り坂、階段や橋などアップダウンのある地形なので、一周するだけで力を入れる部位が変わってきます。そして歩く内に、木々のざわめき、鳥のさえずり、川のせせらぎなど、周囲の自然も目に入り、体がほぐれていきます。やはり都心の公園を歩くのとはまったく気分が違います。ほんのり汗ばんできますが、それがなんとも心地よいのです。翌日の森林パワーウォークに向けて、心も体もスタンバイOKです!
チェックイン後は、スパ棟での約80分間の全身の指圧。施術してくださるのは、あん摩マッサージ指圧師・鍼灸の国家資格を保有する専門家。ウォーキングで深い呼吸をしっかりできるように肋間や胸郭を広げ、日常生活で凝り固まった肩・肩甲骨周りの緊張を緩めます。うれしいのが、施術後のアドバイスです。全身を診てくださった専門家ですので、翌日のウォーキングに備えたアドバイスはとってもありがたいところ。私は足首が意外とやわらかいそうなので、捻挫に気をつけるようにアドバイスをいただきました。
水辺を望むテラスのある客室でひと息ついた後は、お楽しみの夕食です。初日のディナーは、星野エリアにある軽井沢ホテルブレストンコートにある一軒家レストラン「ブレストンコート ユカワタン」にて。ワンピースに着替えてちょっとおしゃれしていただくディナーは、“日本人の感性に寄り添う五感で楽しむフレンチ”。この日のアントレ「鯉とビーツのタルタル 紫蘇ヴィネグレット」から驚きの連続です。赤のヴィネグレットがとっても美しく、さらに食材が鯉とは! 敷地内の生け簀に泳ぐ鯉を使っており、生臭さが一切ありません。酸味のあるソースがさっぱりとした鯉のうま味を引き立てます。またメインの「鳩と鮑のファルシ」にも感動。鮑のリゾットや黒トリュフのソース、鳩の胸肉などそれぞれの素材が主張しあっているのに、不思議とすべてがしっかりと絡み合い、複雑な味わいへと昇華しているのです。たいへんおいしくいただきました。
ディナー後は、星のや軽井沢宿泊客限定のメディテイションバスで深呼吸入浴を。日中に深呼吸入浴法をスタッフに教えていただくので、今度はひとりで実践します。温泉で身体をゆるめ、翌日に備えて就寝です。
たっぷり睡眠を取った翌朝は、館内の日本料理 嘉助で「山の朝食」をいただきます。体をあたためる作用のある生姜を使った出汁巻き玉子、野菜出汁をたっぷり使った味噌汁、大豆を使った豆腐鍋など、滋味あふれる品が並びます。野菜が本当においしいなあとしみじみ。森林養生プログラムは連泊プランのため朝食のメニューは毎日異なりますので、翌朝の朝食もお楽しみに。
森林養生のリニューアルにあたって今回新たに組み込まれたのが、2日目と3日目の森林パワーウォークです。パワーウォークとは深呼吸を意識しながら足裏をしっかり地面につけて速足で歩く健康法のこと。初日に学んだ歩き方を意識しながら、自然が息づく野鳥の森をスタッフとともに歩きます。前の晩に雨が降ったこともあり、木々の香りと息吹をより濃く感じます。身体が涼やかな空気で満たされ、気持ちの良さは格別です。体力や当日のコンディション、天気によってスタッフがルートを選んでくれるのも安心。歩幅を大きく、両手を振りながらしっかり歩いて約1時間半。少し疲れを感じますが、それよりも大自然の中でのウォーキングの心地よさに思わず笑顔です。
昼食後は、森の中で心の緊張をほぐす、枝のスプーンづくりに挑戦です。浅間山麓で自然の循環事業を営む「きたもっく」のスタッフとともに、まずは少し離れた森へ向かい、スプーンになりそうな枝探しと伐り出しから始めます。そして、好みの枝を選び、スタッフのアドバイスを受けながら、ノコギリや刀を使って完成イメージを元に無心で木を削っていきます。すると、いつしか森とゆっくり会話しているような気持ちに。体験当日はベースの作業まで自ら行い、仕上げは作家が手がけてくれます。約1ヶ月後、完成品が届くのが楽しみです。
初日の指圧に加え、2日目にはウォームストーンを使ったオイルトリートメントも森林養生には組み込まれています。熱保持に優れる玄武岩や浅間山の溶岩を肩甲骨や背中、お腹に置いてもらうと、緊張がゆるんでいきます。あたたかい石とオイルのやさしい香りに包まれ、いつの間にかうとうと。約80分間の至福のひと時です。
この日の夕食は日本料理 嘉助にて「山の懐石 夏」に舌鼓。夏は栄養たっぷりな高原野菜が豊富な季節。料理には、使われない野菜の皮や芯を出汁に使い、さらに体を温める生姜を合わせた免疫力アップが期待できるメニューをいただきます。供される器や演出も楽しく、思わず箸が進みます。川の幸、山の幸満載ですべてペロリといただいて満腹なのに、なぜかお腹すっきりしているのは、野菜たっぷりのやさしい味わいのメニューだからでしょうか。
この夜もメディテイションバスで深呼吸入浴。そして、ベッドに入った途端に熟睡でした。
翌日の朝食後は、森の中で腹式呼吸をしながらのストレッチからスタートです。身体を動かしながら、森の澄んだ空気をいっぱい取り込みます。そして森林パワーウォークへ出発! 3日目ともなると、最初から余裕があるからか、心も浮き立ち、カラダもココロもどんどんほぐれていくのがわかります。
2泊3日のプログラムすべての行程が終了したら、最後のコンサルテーションです。体験前に思い込んでいたのんびりとした内容とは少し異なりましたが、心地よい疲労感と充実感に包まれました。汗をかきながらの運動、指圧とオイルトリートメント、温泉でのリラクゼーション、フレンチと日本食の美食、広々とした客室での滞在。ラグジュアリーな空間と自然の中で過ごす時間、このメリハリが星のや軽井沢ならではの体験でした。「3日間で学んだことを習慣化し、自分を見つめ直すきっかけにしていただければ」というスタッフさんの言葉をぜひ持ち帰りたいと思いました。楽しい時間はあっという間でしたが、帰る頃には姿勢がなんとなく良くなった気がします。
ひと雨ごとに秋の気配が近づくという軽井沢。きっと紅葉の時期もさぞや美しいことでしょう。またいつか訪れたい、そう思わせてくれた2泊3日の旅でした。
<森林養生>
■料金:1名 181,500円(税・サービス料込)*宿泊料別
■含まれるもの:コンサルテーション2回と身体の状態のチェック、深呼吸法と歩き方のレクチャー、森林パワーウォーク、森ののびのび深呼吸、深呼吸入浴法のレクチャー、
メディテイションバスでの深呼吸入浴、枝のスプーンづくり、指圧の施術1回、
ウォームストーン・トリートメント1回、夕食2回、朝食2回、昼食1回 ※食事は時期によって内容が異なります
■定員:1日1組(2名まで)※1名から体験可
https://hoshinoya.com/karuizawa/ にて15日前までに予約
次回は軽井沢星野エリアのエコリゾートの取り組みを紹介をします。
取材・文:塩見有紀子