ここに来るとなぜか身も心も軽くなる。心身のバランスが整えられる。そんな気分になる場所ってありますよね。私にとって台湾はそのひとつ(ちなみに国内では小笠原諸島)。台湾で大切に継承されてきた医食同源の考え方が、日常のなかに無理なく溶け込んでいるからでしょうか。もりもりと食事をしても(だって台湾といえば食べ歩き)、思いっきり遊んでも、いつも元気でいられます。
大甲渓という川が流れる谷あいに佇む谷關温泉郷
前編では「星のやグーグァン」の麗しき施設&美味をたっぷりご紹介しましたが、さらに台湾らしくリラクゼーションを促すアクティビティが揃っています。日本人には慣れ親しんだ旅館ステイをベースにしながらも、台湾の“おばあちゃんの知恵”的な健康法に挑戦できるのは、やっぱり台湾に来たからこそ。 宿で体験したウェルネスなプログラムを、一日の流れに沿っていくつかご案内します。
深い呼吸を意識して五感をリフレッシュ
「氣循森呼吸」。天気がよければウォーターガーデンで行われます
かけ流しの温泉で疲れた身体を解きほぐし、静寂と闇に包まれた谷あいでぐっすり眠った翌日。朝一番に開催されるのが「氣循森呼吸」です。これは、台湾では古くから健康法として親しまれた気功をベースに、深呼吸と軽いストレッチを組み合わせたオリジナルの体操。ワークアウトではなく、深い呼吸をしながら自分の心身と対話し、感性を隅々まで目覚めさせるのが目的に考案されました。
台湾で朝の散歩をすると、公園で気功をアレンジした体操をしているシニアのグループをよく見かけます。若い人たちも起床後や就寝前に、メディテーションをしている人も多いとか。呼吸って大切なんですね。
もともとの自然を生かしてデザインされたウォーターガーデン
自然に包まれたガゼボは、そこにいるだけで気持ちがいい
深呼吸をすると、五感が目覚めていくのがわかりました。目に嬉しい朝露に濡れた鮮やかなグリーン。ウォーターガーデンのどこにいても聞こえてくる、さらさらと流れる水音と遠くに鳥の声。温泉のお湯のやわらかさ。森が放つ青い香りと甘やかな花。あぁ、お腹すいた。
のんびりと朝食をとり、食後のお散歩を兼ねて参加したのが「草花散策」。専門の知識を学んだスタッフが、台湾の固有種を中心に、ウォーターガーデンの草花を紹介してくれます。日が高くなるにつれ、森は朝の濃密な香りから、乾いた清々しい香りへと、匂いが変わっていました。
「草花散策」のプログラムでは寝そべって大地を感じる時間も
このプログラムは、敷地内の植物と苔を使ったミニ盆栽づくりのサプライズ付き。土付きの植物は日本へ持って帰れないので、滞在中は部屋に飾って楽しみました。一緒に参加した台湾っ子たちは、写真を撮りながらきゃあきゃあと楽しそう。いいお土産になるそうです。
ミニ盆栽づくりのために用意された植物や苔。可愛い盆栽ができます
そろそろお茶でも、というタイミングで始まったのが「谷茶のひととき」。谷關の食文化にちなんだ台湾スイーツを楽しむプログラムで、私が参加した時は、谷關にも多く暮らしている「客家」という民族が、おもてなしとして振る舞う特別な飲み物「擂茶(レイチャ)」づくりが行われました。
材料を丁寧にすり鉢ですり、緑茶でのばす、スペシャルドリングの擂茶
タイムスリップしたような温泉郷で町中華
このままリゾートでまったりと過ごしてもいいけれど、町の食堂で、谷關の名物チョウザメをローカルなスタイルで食べられる。そう聞いて、100年ほど前に開かれた温泉街まで足を伸ばしてみることにしました。
温泉街への入り口は、大甲渓に架かるサオライ吊り橋
「星のやグーグァン」からメインストリートまでは、のんびり歩いて20分ほど。ちなみに、もっとアクティブに過ごしたい人には、谷關の豊かな自然をより深く体感できる徒歩1時間半ほどのトレッキングコースもあります。
谷關古霊寺や温泉公園のドクターフィッシュの足湯、石造りのノスタルジックな町並みも
気の向くまま、ふらふらと寄り道しながら到着したのは、レトロな趣のある客家料理店。チョウザメの豆鼓炒めのほか、このあたりで採れる固有種の「山猫(サンマウ)」という山菜の炒め物や、バジルに似た山菜を加えた卵焼きなど、ローカル料理を満喫しました。
食堂や売店が集まる谷關温泉郷のメインストリート
これぞ町中華なメニューの数々。お供はもちろん台湾ビール
この通りでは、谷關の名物のひとつといわれる松葉汁(松葉のジュース)も売っています。松葉ジュースは健康にいいと言われているそう。味はさておきヘルシーな1日を演出する体験としてぜひお試しを。
お宿に戻ったらさっそく温泉へ。最後に参加したアクティビティが「温泉の時間」。大浴場にあまり慣れていない台湾の人たちも、リラックスして湯浴みできるように、温泉の達人が入浴しながらできる簡単なストレッチを教えてくれます。入浴のシーン別に用意された温かいお茶のサービスもありがたい。
四季の草花に囲まれて自然と一体感を得られる露天風呂
窓から差し込む光が美しい大浴場の内湯
「温泉の時間」ではストレッチを。入浴前・中・後にお茶を飲み分けるのも台湾らしい
いま振り返ると、2020年でもっともヘルシーな一日を過ごしたかもしれない、「星のやグーグァン」での理想的なステイでした。次の旅先として、真っ先に飛び立てますように!
取材・文/江藤詩文