第51回 奥入瀬渓流をオープンエアのバスで楽しむ「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」(青森県・十和田市)

十和田八幡平国立公園内を流れる奥入瀬(おいらせ)渓流は、十和田湖から流れ出る美しく変化に富む渓流約14㎞のことです。国立公園の特別保護地区、国の天然記念物、特別名勝に指定され、豊かな自然が身近に満喫できることで知られています。

この渓流沿いに建つ唯一のリゾートホテルが「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」。旅恋ではこれまでも苔を楽しむ「苔ガールステイ」や2019年夏にオープンしたフレンチレストランなどの記事をご紹介をしてきました。

緑に囲まれるホテルラウンジ

今回は「withコロナ時代」の取り組みをご紹介したいと思います。

約3mから見る新しい奥入瀬渓流の魅力

赤い2階建てバス「スカイバス東京」。東京の街中であるいはテレビなどで見たことがある方もいるのではないでしょうか。東京の観光スポットを巡るこのバスツアーも新型コロナウイルスの影響によるインバウンドの激減で、その出番が少なくなってしまいました。そこで「スカイバス東京」を展開する日の丸自動車興業株式会社と星野リゾートによるコラボで実現したのがこの「渓流オープンバスツアー」。さらにバスの運行は地元のバス会社、十和田観光電鉄株式会社が担うという、地域の観光産業が一体となる新しい試み、まさにWin-Win-Winなのです。

 

渓流沿いを走るオープンエアバス(星野リゾート提供)

バスはホテル前から出発し、十和田湖の子ノ口(ねのくち)間を、1時間15分かけて、ゆっくり往復します。オープンエアの2階部分の座席にだけ乗り込みます。乗用車や一般的なバスより高い約3mの目線。樹々が近いせいか森の香りも一段と引き立ち、清流のせせらぎや野鳥の声も存分に楽しめます。秋が深まり、紅葉が進めばその色鮮やかな森のトンネルもごく近くに感じられることでしょう。

目線が変わると景色も変わる(星野リゾート提供)

現在、ホテルの宿泊客は青森県内や東北エリアからのお客様が多いとのこと。以前から奥入瀬渓流に親しんでいる方でさえ、目線が変わるとこんなにも違うものなのかと驚かれる声も多々。ゆっくり進むバスからの眺めは、歩いて楽しむ奥入瀬とはひと味もふた味も異なるのです。

「渓流オープンバスツアー」

期間:~10月31日 時間:9時~10時15分、11時~12時15分
料金:8~9月は1500円、10月は2000円
席数:26(自由席)ソーシャルディスタンスを保ち座席配置
4歳以上から乗車可能、雨天時は無料配布のレインコート着用(ただし天候により中止もあり)。
予約:公式サイト または出発1時間前まで現地受付

さて、バスで楽しんだ後は、ちょっと歩いてさらに奥入瀬渓流を満喫してみましょう。

渓流内に漂うマイナスイオンをたっぷり浴びたり、水の流れをぼーっと眺めたり、ルーペを使って苔のミクロの世界を観察したり…。自由に散策するのもいいのですが、ネイチャーガイドと歩くツアーや「苔さんぽ」、さらには3密回避の安心プライベートツアーなども用意されています。この渓流をこよなく愛するガイドの熱弁も心に響くことでしょう。

マイナスイオンたっぷり
銚子大滝

奥入瀬渓流の地盤は約76万年前に八甲田カルデラから噴出した火砕流堆積物でできており、約1万5000年前に十和田湖が決壊した際の大洪水で侵食され、U字型の深い谷が形成されました。100種類以上の樹木、約315種類の苔やシダ類などの多様な生態系が育まれ維持されているのです。私も改めてその素晴らしさに感動しました。

「Sonore(ソノール)」の華麗なるマリアージュ

昨年誕生したフレンチレストラン「Sonore(ソノール)」。ディナーは渓流を望むテラスでのアペロから始まります。シャンパンのお供は西瓜のガスパチョ、アスパラガスやサーモンと山椒味噌など。目に沁みるほどの緑と心地よい風、徐々に近づく夕暮れの気配…。ここで1時間ほど過ごす客もいると聞き、「えー!1時間も!」と思っていたのですが、あまりの心地良さに私たち取材班も40分以上寛いでしまいました。

シャンパンで乾杯

屋内に場所を移し、コースの始まりです。料理長は「星野リゾート ロテルド比叡」の総料理長を務めた岡亮佑さんが、この4月から「Sonore」の料理長に。ロテルド比叡でも地元の食材や郷土料理などをベースにしたフレンチを堪能させていただきましたが、こちらではどのような料理が供されるのか、興味津々です。

今が旬のトウモロコシとフォアグラのタルトから始まり、次の一皿は中トロと赤身を使った鮪のタルタル。ソースは黒ニンニクと鮪の魚醤で合わせ、これにブルゴーニュのピノノワールがベストマッチ。

美しい鮪のタルタル

帆立貝、アイナメ、牛肉と、いずれも確かな技術で見事な料理に仕立てられ、さらにそれに合うワインの数々。なんとワインは150種類を揃え、希少なものもあり、驚きの連続。なかでも、青森・八戸の郷土料理・いちご煮をアレンジした料理は絶品でした。

いちご煮とは、雲丹と鮑のお椀で、赤みが強い雲丹が野イチゴのように見えることからこの名があります。缶詰にもなっている、磯の風味豊かな吸い物です。これがアサリや帆立貝の濃厚なソース仕立てで、登場。いちご煮の仕上げに大葉を使うように、同様に大葉の香りが全体を引き締めます。ブルゴーニュの透明感のあるオレンジワインとのマリアージュも抜群。

いちご煮もフレンチで

デザートはアーモンドのアイスクリーム&プラムソース、桃のコンポート&ヨーグルトムースのケーキ、お茶菓子は南部せんべい! 9月1日からは秋メニューになるとのこと、また季節を変えて訪ねてみたいと思わせる、食の悦びを謳歌できるコース、口福度100%です。※仕入れ状況により、食材の産地や提供内容が変更になる場合があります。

旬の桃を使ったデザート

館内は広々としたパブリックスペース、渓流を眺める客室、肌にやさしい単純温泉の露天風呂、渓流テラスでいただくスペシャルな朝食など、ホテルの魅力は枚挙にいとまがありませんが、現在、首都圏から青森へ行くのはちょっとはばかられる状況。しかし落ち着いたらぜひ、この麗しい環境に身を置いて、心身を癒したい。切に願う滞在になりました。

ピクニック気分の朝食

お近くにお住いの皆様はあらためて奥入瀬とこのホテルを目指してみてはいかがでしょう。身近な場所での新たな発見!これこそがマイクロツーリズムの醍醐味です。

星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル

2名1室利用1泊2食付き2万円(税別)~。「Sonore」での食事はひとり1万5000円(税・サービス料別)、渓流テラス朝食はビュッフェ2食プランから追加1300円。食事なしプランでは4050円。

問い合わせ:星野リゾート予約センター0570-073-022

取材・文/関屋淳子  撮影/yOU(河崎夕子)

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