首都圏から日帰りでも行きやすい温泉地・箱根には美術館が多く点在しています。今オススメの美術展とイベントをご紹介します!
シュールの語源!?
ポーラ美術館『シュルレアリスムと絵画―ダリ、エルンストと日本の「シュール」』展
“シュール”は知っていても、「シュルレアリスム」は聞いたことがない。でも、サルバドール・ダリやジョルジョ・デ・キリコの絵はどこかで見たことがある方も多いのではないでしょうか? 現在、箱根・仙石原のポーラ美術館で『シュルレアリスムと絵画―ダリ、エルンストと日本の「シュール」』展が、2020年4月5日(日)まで開催中です。開催前日に行われたプレスツアーを通して、本展をご紹介します。
今年2019年は、1919年にフランスで生まれたシュルレアリスム誕生から100年という節目にあたります。フランスの詩人アンドレ・ブルトンが中心となって進めたシュルレアリスムは、理性を中心とした近代的な考え方を批判し、理性の支配が及ばない無意識の世界に新しい現実“超現実”を求めることを目指して始まった芸術運動のひとつです。1919年は世界中に恐慌をきたし、大量破壊兵器を生み出した近代戦争の始まりでもあった第一次世界大戦終戦の一年後のこと。WWⅠは近代や理性が生み出したものとして批判し、その逆にある“反近代”“反理性”“無意識”の世界を目指すようにシュルレアリスムが生まれました。
シュルレアリスムの誕生
1924年にブルトンは、書籍『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』を発表。そして文学から徐々に絵画の分野へとシュルレアリスムの世界は広がっていきました。絵画におけるシュルレアリスム運動を代表するのが、ドイツ出身の画家マックス・エルンストです。彼は、絵画を専門に学んだことがなかったからこそ、様々な新しい実験方法や手法を積極的に取り入れ、理性にとらわれない新しいイメージを作っていきました。展示会場には、木の葉や木目、麻布などに紙を置いてこするように絵画を描いたり、画面の表面を削り出す「グラッタージュ」を用いたエルンストによる作品などが展示されています。
一方で、サルバドール・ダリは、元々映画作家としてパリへやってきたスペイン出身の画家です。溶ける時計の絵など、きっと皆さんもダリの絵はどこかで見たことがあるはずです。
ダリは、ブルトンらシュルレアリスムの中心人物と面識を得ましたが、彼はその後パラノイア(妄想・偏執狂)の世界を描くようになり、わかりやすい奇妙さを追い求め始めました。そして、いつしかシュルレアリスムの本流とは離れていくことになってしまい、なんと、ダリは1934年にブルトンから除名勧告を受けてしまったのです。
ですが、スター性のあったダリはアメリカへと渡り、ハリウッド映画やファッションとコラボすることで大成功をおさめることになったのです。会場にはダリの絵画作品や、ダリが表紙を飾った雑誌「TIME」などが展示されています。
このように、シュルレアリスムは、文学から絵画へと展開することで言語の壁がなくなり、世界中に影響を与えるようになっていったそうです。
イヴ・タンギー《聾者の耳》
その一方、日本のシュルレアリスムはいつしか・・・
1930年代の日本では、写真が多く掲載された雑誌や、海外の作家の作品が展示される機会が増えていきました。しかし日本では、シュルレアリスムの元々の思想であった「新しい現実の表現」とは離れ、「現実を超えた“夢”のようなもの」「現実から遊離した幻想的な世界を表現するもの」ととらえられるようになっていきました。そして、禅や仏教的な思想とも結びつき、「日本風シュール」は、しだいに「シュール」と略され、日本独自の発展を展開するようになっていったそうです。
展示会場には、エルンストの表現に強く影響を受けた福沢一郎や、日本で初めて「超現実主義的」と称された古賀春江による作品などが展示されています。パリで生まれたシュルレアリスムと、日本のシュール。一体何が描かれているのかよくわからない、、、一見すると似ているように見える、世界と日本の作品たちですが、実は根っこの考え方がいつの間にか違っていたのですね! それらの共通点や異なる点、流れや変遷を多くの作品を通してよく理解できるようになっていますので、解説を読みながらじっくりご覧くださいね。
古賀春江《白い貝殻》
ウルトラマンがシュルレアリスム!?
急速に近代化が進んだ戦後の日本では、1960年頃から怪獣映画が多く制作されるようになり、『ウルトラマン』は特撮映画の代表とも言えます。キャラクターの原案を担当した成田亨は、シュルレアリスムの表現を使って、ブルトンやダダ(芸術運動のひとつ「ダダイズム」より)などを怪物の名前に使っています。第2会場では、成田による原画の展示もありますので、ウルトラマンシリーズファンは歓喜するのではないでしょうか。
左から、成田亨《ウルトラマン初稿》《ブルトン》《ダダ》ⒸNarita/TPC 展示期間:~2020年2月5日
シュルレアリスムを思わせる束芋による作品
また、映像インスタレーションで知られる現代作家・束芋(たばいも)による、日本初公開の映像作品や映像インスタレーション、版画シリーズの展示もあります。
束芋氏は、プレスツアーでのアーティストトークで「脳の中で考え、起こっていることをコラージュし、自由にならない“概念”などを作品にしています」「スタート地点は違っていたとしても、目指すところがシュルレアリスムと似ている、画面の外側にあるものを鑑賞者に想像させたい」と語っていらっしゃいました。
内臓と花を組み合わせた彼女の作品をご覧になって、皆さんは何を思いますか? 描かれている内臓はとてもリアルなのに、私は「なんと美しい・・・」と思いました。
束芋氏
空気を感じさせる佐藤翠の作品
本展と同時開催で、『佐藤翠 Diaphanous petals』展も4月5日まで開催中です。クローゼットや、文様で覆われたカーペットなどの絵画作品で知られるアーティストである彼女は、研修先のパリでの経験を経て、今回新作6点を展示。
アーティストトークでは、「それまで抽象画にむかっていたものが、パリの留学を通して、また具象絵画になってきました。今回のクローゼットシリーズでもわかるように、自分の想像の中にあったクローゼットから、パリにあった実在のブティックのクローゼットをイメージして制作しました」とおっしゃっていました。
大気や空気感を含んだような淡い色合いの作品たちはやさしさとともに、どこか儚ささえ感じさせます。 この質感は実際に見てみないとわからないので、ぜひ訪れてくださいね。
佐藤翠氏
レストランやミュージアムショップも
制作に携わった『カフェのある美術館 素敵な時間を楽しむ』(世界文化社刊)で紹介してしている、美術館併設のレストラン「アレイ」では、企画展特別メニューも提供。ダリの故郷であるスペインの郷土料理をアレンジした特別コースメニューでその魅力を存分に堪能してみてくださいね。
また、ダリが活躍したアメリカで親しまれている「ペカンナッツ」のスイーツもミュージアムショップで購入できますので、お土産にどうぞ。関連イベントも開催予定なので、詳細は公式HPへ。
ポーラ美術館 シュルレアリスムと絵画―ダリ、エルンストと日本の「シュール」
2019年12月15日(日)~2020年4月5日(日)(会期中無休/年末年始も開館)
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美しい景色に出会いに、夕方に訪れたい
彫刻の森美術館のナイトミュージアム
箱根にある「彫刻の森美術館」で<箱根ナイトミュージアム>が来年1月5日(日)まで開催中です。昨年プレス内覧会に参加したのですが、日中に見るのとはまったく異なり、とっても幻想的な光景が園内に広がっていました。
ライトアップエリアが拡大!
光のアーティスト・髙橋匡太氏がプロデュースする3回目となる今年は、昨年よりさらにパワーアップし、より魅力的になりました。今年のライトアップは、橋を渡った緑陰広場までライトアップのエリアを大幅に拡大! かなり広がった回遊エリアを、LEDの光を使ったお子様でも安心して持てる和提灯を手にして進んでいきます。すると、渡された時はひとつひとつ異なる色に光る提灯が、順路を進んでいく内に屋外に点在する彫刻作品や風景のライトアップの色に呼応して次々に色を変えていくのです! 鑑賞者一人ひとりが持つ光る提灯が揺れ、鑑賞者の提灯が園内あちらこちらに散らばるにつれ、夜の屋外展示場に自分自身もアート作品を作り上げているかのような美しさが広がります。
SNSで話題沸騰!のアートスポット
そして、SNSで大人気のステンドグラスの塔《幸せをよぶシンフォニー》が今年初めてライトアップされました! 外光が差し込む日中もドラマチックな光景を見せてくれますが、夜は塔の中から輝きを放つ光の世界を外から鑑賞できるようになりました。
2018年の「《興福寺中金堂ライトアップ》落慶記念特別夜間拝観」(奈良)や、2019年の「《タイムスケープ2019》駿府城ひかりのナイト」(静岡)を手掛けた音楽家・山中透氏による音楽とのコラボも今年初めての試みです。《幸せをよぶシンフォニー》のライトアップのために作られたオリジナル曲と美しいライトアップが連動し、より一層荘厳な雰囲気を感じられることでしょう。
また、期間中は、今年7月にリニューアルオープンした「ピカソ館」も18時まで延長開館されていますので、ゆっくりとピカソ作品を鑑賞できるのはうれしいですね。2020 年1月4日(土)17:00~17:45には、髙橋匡太氏によるアーティスト・トークも行われます。
カラフルな光と、光が生み出す影。光と影のコントラストが作る幻想的なナイトミュージアムは、冬を彩る特別な時間となることでしょう。防寒対策をして、自分もアート作品の一部になってみてくださいね。
彫刻の森美術館 箱根ナイトミュージアム
開催中~2020年1月5日(無休/年末年始も開館)
ライトアップ時間:16:45 〜 18:00(入館は17:15まで/提灯貸し出し17:30まで)
入館料:大人1,600 円、高校・大学生 1,200 円、小・中学生 800 円 ※ライトアップ体験含む
※毎週土曜はファミリー優待日(保護者 1 名につき小・中学生 5 名まで無料)
取材・文:塩見有紀子
※現在、台風19号の影響で箱根湯本駅~強羅駅間の箱根登山電車は運休中ですが、2つの美術館ともバスでアクセスできます。詳しくは各美術館のHPへ