世界のファインダイニング by 江藤詩文

第61回 泊まりがけで出かけたい! 全豪が誇るガストロノミックなリトリート「Brae」 (オーストラリア・ビクトリア州)

南半球きっての美食都市メルボルンから「グレートオーシャンロード」を目指して1時間20分。ついに、ついに。世界のフーディーズが憧れるデスティネーション・レストラン「Brae(ブラエ)」にやって来ました。

といってもここ(トップ画像)は農園の入り口。なだらかな上り坂に沿って30エーカー(ざっと東京ドーム2個半くらい)の農地が広がり、その一部に自然と調和するようにデザインされたレストランと宿泊施設がこじんまりと佇んでいます。

▲ダイニングとガーデン。
マダムのJulianne Bagnato(ジュリアンヌ・バグナート)さんが案内 

自然界の中に人間がお邪魔して共生しながら恵みを分けていただくーー。

目の前に広がっているのは、オーナーシェフ、Dan Hunter(ダン・ハンター)さんのそんな哲学を具現化した世界。オリーブの木や柑橘の樹木(ちょうどアボカドが実をつけていました!)、オーストラリア在来種のエディブルプランツ、オーストラリア発のパーマカルチャーに基づいたハーブや野菜といった1000種類近くもある植物、ふたつの池、放し飼いのニワトリ、ミツバチの巣箱。ダンさんのファームは、料理人なら誰もがうらやむ食材の宝庫なのです。

▲ダン・ハンターさん。ガストロノミー好きなら「Mugaritz」の
ヘッドシェフを経てこの世界観を創りあげた
ダンさんの振り幅にも興味があるかも?

地域の信頼する生産者から届く肉や魚とファームからの恵みを組み合わせて、世界のどこにもない唯一無二の料理をつくり出すダンさん。イメージに合った状態の食材をその日に使い切る分だけ過不足なく採取する。キッチンではサステナブルな調理がごく当然に行われています。

なかでもファームと厨房が一体となったアドバンテージを生かしきっていたのが「ガーデンサラダ」です。

 ▲10種類以上のハーブや葉野菜を温かいソースでまとめ、
花の香りを移したスプレーで仕上げる

生育途中のハーブや野菜のやわらかいところだけを丁寧に摘み取ったサラダは、シャキシャキではなくふわふわした食感が印象的。赤ちゃんのうちに採集したり、逆にわざと旬を過ぎるまで畑に置いておいたり。一般的には流通しない植物のさまざまな表現を、一期一会のクリエイションに落とし込むのです。


▲畑の様子をそのまま食卓に再現した季節と一体化した美しい料理。
葉や花は飾りではなく食材ということが明確に伝わる

「日帰りなんて残念。ここは自然だけで周りには何もないから、ゆっくり眠っていただけるのですよ」とジュリアンヌさん。なんと。ガストロノミー・ツーリズムにプラスしていま世界が注目するスリープ・ツーリズムのデスティネーションにもなりうるとは。Braeすごい。

宿泊客には客室に朝食が用意され、ゲストはそれを持って広大な自然の中でピクニックすることもできるとか。なんでしょうその多幸感は。

東京の中心で暮らして数十年。いますごくこういう世界に惹かれていることを自覚しています。次に来ることができたら絶対に絶対に泊まります。そう言うとマダムは「焼きたてのパンを用意してお待ちしてますね」(そう、屋外に薪焼きの焼き窯があるのです)とやわらかく微笑みました。

▲「ゲスト・スイート」と呼ばれる全6室の客室はそれぞれデザインが異なる。

(データ)
 Brae https://braerestaurant.com

*公式サイトから予約できます。
*記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます。

取材協力 ビクトリア州政府観光局 https://jp.visitmelbourne.com

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