「ちょっと詩文ちゃん。ハヤサカさんの料理を早く食べなさいよ」。
旧知のスター農家さんからそんな電話があったのは、長引く自粛生活に飽き飽きしていた頃のこと。「ハヤサカさん、すごく腕がいいよ」。
イタリア産ブラティーナチーズ 苺とフルーツトマトのカプレーゼ 紫蘇
もちろん知っていますとも。「ザ・リッツ・カールトン日光」の開業と同時に、総料理長として着任した早坂心吾さんは、以前から注目していた料理人。六本木や銀座といった東京の中心で、夜毎有名店を食べ歩く手強い(うるさい?)ゲストを相手に、最先端の料理を提供していた彼が、栃木に移ったと聞いたときには驚いたものです。
季節の鮮魚(この夜は真鯛)と浅利のブレゼ 栃木県産舞茸とポルチーニ 季節野菜 グアンチャーレ)
総料理長として早坂さんが日光につくったのは「どこで何を食べてもまるごとおいしいリゾートホテル」。料理で栃木の魅力を表現したいと、開業準備期間から生産者を回り、これぞという逸品を集めました。
あまりにも栃木愛が強いから、生まれ故郷かと思いきや、出身地は北海道(笑)。でもそうでした。この人は東京の真ん中にいた時から、コツコツと生産者を訪ねては、よきものを生み出す小さな作り手に光を当て続けてきたのでした。料理人にはいろんなマニアがいますが、早坂さんはいわば“知られざる名品マニア”。
長谷川農場足利マール牛のシェリービネガー煮込みとグリル 海老原ファーム焼き野菜 ソフトポレンタ
そんな早坂さんが手がける料理を楽しみに、洋食ダイニング「レークハウス」を訪れました。ここはファミリー旅行など、幅広いゲストが訪れるリゾートですから、メニューはこれまでの早坂さんの作品と比べると、ひと皿の食材数を抑えるなど、わかりやすく構成されています。皿数も絞り込み、時間も短めで、ファインダイニングに慣れていないゲストも最後まで楽しめるよう、なめらかなサービスと共に心遣いが散りばめられていました。
荒牧りんご園のアップルクランブル 日光御養卵のカスタード バニラアイスクリーム
一見親しみやすい。でも。絶妙な香りや酸味、食材の輪郭の際立たせ方。早坂さんは、世界でベスト5に入る南米のシェフや、アジアのトップシェフと互角にコラボレーションを行い、世界のガストロノミーの最先端を知っている人。そういう人が手がける料理は、気軽な料理ばかりをつくり続けて来た人とはやっぱり違う。どちらがよい悪いではなく、確かに違うのです。これがセンスというものか。
中禅寺湖に面したリッツカールトン日光の「レークハウス」。宿泊しなくても利用できます
こんな総料理長が指揮を執っているのだから、ここにはとにかくおいしいものが揃っています。ちなみにホテル界では、ここは「リッツで世界唯一の温泉リゾート」ってことになっていますが、私にとっては「リッツが本気を出した食いだおれリゾート」。ここでなら太っても悔いなし。
朝ごはんも和食レストランもバーもロビーラウンジも。「おいしいザ・リッツ・カールトン日光」の全貌は、また機会を改めて。
(データ)
レークハウス(ザ・リッツ・カールトン日光)
https://www.ritzcarlton.com/jp/hotels/japan/nikko/dining/lakehouse
公式サイトから予約できます
*料理はすべて訪問時のもの。季節などにより変更されます