世界のファインダイニング by 江藤詩文

第17回 本能がおいしい!と笑い踊る、古典フランス料理の絶品ソース「hotel de yoshino(オテル・ド・ヨシノ)」(和歌山県・和歌山市)

ある国で出会ったフランス人フードライターが、こんなことを言っていました。「この国の料理は生命を維持するためにある。一方で伝統的フランス料理は、歴史と文化を味わう芸術なのです」

このときは、さ、さすがフランス人ってば…と若干引き気味だったのですが、ここの料理を口に含んだ途端、この言葉を思い出しました。王道フランス料理だけが持つ圧倒的な凄みと風格。揺るぎない存在感。

シワひとつない真っ白なクロスやナフキンも正統派フランス料理店の文化

パリでミシュランの星を獲得し、日本におけるフランス料理の発展に貢献した吉野建さん。その彼の名を冠した「オテル・ド・ヨシノ」の料理長に抜擢されたのが手島純也さんです。手島さんは、本場フランスでさえさまざまな形に変化している現代のフランス料理界で、古典フランス料理を継承する第一人者。「僕が食べて感動したクラシックな料理を、次の世代に伝える役目を果たしたいと思っています」と手島さん。

 

手島さんの公式インスタ @junchef1975 に投稿されているソースは必見

濃厚なうま味をひと口サイズに凝縮した熱々のグジェールに続いて登場したのは、ウニとキャビアのジュレにニンジンのムースをのせた冷たい前菜。魚介のミネラル感と魚卵のねっとりと重みのある粘度、ニンジンの甘みの奥にある土の風味はインパクト抜群で、定番の組み合わせながら、いま主流の軽くていくらでも食べられそう系とは真逆を行く味覚の構成です。

 

重ねたプレートや磨き抜かれたカトラリー。特別な時間を体験できます

とりわけ圧巻だったのはトップ画像の「古座川の鹿 パテショー」。しっかりと食べごたえのある赤身の背肉でフォアグラを挟み、スパイスなどを加えたジビエのミンチで薄く外側を覆い、さらにちりめんキャベツを重ねて、薄い生地を何層にも重ねたパイ皮で包んで焼き上げています。ハラリ、サクッ、しゃきっ、しっとり、とろり。断面の彩りと異なるテクスチャーの共演に、口に運ぶ前から目が、手が嬉しい。

絶妙な火入れのキンメダイに合わせたのはサフランの香る華やかなソース

そしてソースの美しさ。水鏡のように料理の姿を映すほど艶々となめらかに輝くソースは、骨格がはっきりした濃密な味わい。ソースは料理の添え物ではなく、この皿におけるもうひとつの主役なのです。

 

前回ご紹介した「villa aida」と共に、和歌山の美食界の最高峰に立つ「hotel de yoshino」。世界水準のレストランが一軒ではなく二軒あると、それは旅をする動機づけになり、そこから人の流れが生まれる。世界には、そんなガストロノミーツーリズムが成功した地方都市がいくつもあります。

 

シマアジのマリネには地元・紀州原農園の柑橘果汁のジュレを合わせて

訪れる前は遠いと思っていたけれど、実際は意外と行きやすかった和歌山。移動の自由を取り戻せたら、和歌山ガストロノミーをぜひ楽しんでください。

 

hotel de yoshino

予約は電話のみ

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