3月にオンラインで発表された2021年版「アジアのベストレストラン50」。世界的に例年とは状況が変わった今回は、通常の50位までのランキングを拡張したエクステンションリストとして、初めて51位〜100位が発表されました。そこに京都から唯一91位にランクインしたのがcenciです。
アジアのフーディーズが東京の次に食べ歩きをする第二の都市は京都で、京都といえば筆頭に挙がるのが日本料理。そんな状況下でのcenciの躍進は、アジア各国で非常に興味深く受け止められました。
シグネチャーディッシュのひとつ、BON DABON多田昌豊さんの
ペルシュウと自家製ブッラータ
話は飛びますが、日本にイタリア料理のジャンルを確立してきた有名シェフたちは、本場イタリアの味を日本でいかに再現するかに心を砕いてきました。イタリアの星つき店で修業しなければ、一流の料理人とは認められない。そんな時代があったのです。
下のカップに入ったスープに落として食べる甘エビのタルタル
ところがオーナーシェフの坂本健さんは、京都・伏見生まれの京都育ち。学生時代にイタリアを遊学したことこそあれ、本格的な修業経験はないのです。彼がキャリアを重ねたのは、京都のイタリアンの名店「イル・パッパラルド」そして京都の食文化とイタリアのそれを融合した京イタリアンの元祖・笹島保弘さん率いる「イル・ギオットーネ」です。つまり生粋のみやこびと。
オーナーシェフの坂本健さん。
食材の持ち味を研ぎ澄ます塩の効かせ方と発酵由来の品のいい酸味の使い方がうまい
この圧倒的なバックボーンが坂本さんの料理の文脈になり、この土地でこの人しかつくり得ないひと皿を生み出している。緩急をつけて流れるようなコースの中には、旬のホタルイカをふんだんに使ったパスタなどイタリアンらしいものもありますが、イタリア料理の技法を用いて表現されているのは、むしろ日本のスピリットなのです。
茶道を思わせるプレゼンテーション。マカロンのフレーバーは完熟したかぼす
ZENの精神さえ感じさせる磨き抜かれた美意識。一方で、コンブチャやアマゾンカカオ(生産者を訪ねてペルーのジャングル奥地まで出かけたそう)といった、世界のムーブメントにもちゃんと目配りしています。
古い日本家屋をスタッフ総出で改築したダイニング。
中庭で発酵させているのは、坂本さんの実家でとれた夏みかんのノンアル用酵素シロップ
もちろんアジアのフーディーズに評価されることがすべてではないし、アワードには関心のない料理人もたくさんいます。けれども地方から世界を見据えているなら、cenciに学ぶことはたくさんあると思います。
京都だからこそ味わえるイタリアン。再び自由に京都旅行ができるようになったら、世界のトレンドを味わいに真っ先に行っていただきたい一軒です。
<データ>
cenci(チェンチ)https://cenci-kyoto.com
公式サイトからオンライン予約できます。