男鹿川と鬼怒川が交わる地に湧く川治温泉。龍王峡など野趣あふれる渓谷美が続く、豊かな自然に囲まれた閑静な温泉地です。その南に位置する賑やかな鬼怒川温泉と比べると、いっそう静かな山あいの湯どころの風情が際立ってきます。
2014年、この地に開業した「星野リゾート 界 川治」は、「里山」をコンセプトにした温泉旅館。この12月からバージョンアップした「うるはし現代湯治」のプログラムを山本がいち早く体験してきましたので、ご案内いたします。
温泉旅館らしい重厚な門構えで
迎えてくれる「界 川治」
「うるはし現代湯治」とは?
現在、全国に15の施設がある星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」。2017年12月から「界」で共通して展開しているのが「うるはし現代湯治」という滞在プログラムです。これは、日本伝統の湯治文化が薄れる現代において、忙しい現代人に新しい形の湯治を気軽に実践してもらおうという取り組み。江戸時代には短くても1週間以上という長期滞在で温泉療養が行われていましたが、現代においてそれを取り入れるのはなかなか難しいですよね。そこで星野リゾートでは1泊2日の「界」での滞在で、忙しい日々の疲れを取り、明日への活力を取り戻してもらうおうと提案しています。
渓流のせせらぎが聞こえてくる開放的な露天風呂
例えば、お部屋には館内や客室の案内とともに、温泉をもっと楽しみ、温泉の効能を感じていただくための「界のうるはし現代湯治ガイドブック」が置いてあります。また、湯上がり処には、温泉に関するパネルも展示されています。
パネルが展示される
落ち着いた雰囲気の湯上がり処
「界 川治」には、男女別の大浴場に内湯と露天風呂が備わります。湯船を満たすのは無色透明の肌にやさしい湯で、泉質はアルカリ性単純温泉。
さらに「胡桃の森」という名の庭の一角には、足湯もあります。15時~18時、7時~12時(季節により変動あり)に利用可能で、眼下を流れる男鹿川を眺めながらくつろぐことができます。
男鹿川を眺められる足湯。
タオルもあるので手ぶらでどうぞ!
早朝には足湯のそばでお飲み物とくだものが振る舞われます。庭を散策し、足湯で体温を緩やかに上昇させることで、スッキリと目覚め、1日を爽やかにスタート! 太陽の光を浴びることで体内時計もリセットされます。
この日は整腸作用のある葛湯、
デトックス効果のあるよもぎ茶、
ビタミンCが豊富なイチゴが用意されていました
2018年12月からの新提案
2018年12月からこの「うるはし現代湯治」に「界の湯守り」と「温泉いろは」が新しく加わります。「界の湯守り」とは、温泉に精通したスタッフのこと。お客様に温泉の知識や入浴方法、ストレッチ方法などをお伝えするほか、大浴場で快適に過ごしてもらえるよう湯温の調整や浴場の清掃など温泉の管理も行っています。大浴場で半纏姿の湯守りを見かけたら、声を掛けてみてくださいね。
「温泉いろは」は、湯守りによる温泉の“いろは”について学べるプログラムのこと。これは界の各施設のオリジナルとなっていて、内容は施設により異なります。
「界 川治」では、19時30分~20時の間、湯上がり処にてストレッチや呼吸法、瞑想・座禅など、湯守りの案内で行うプログラムをご用意。誰でも参加できますので、夕食を早めに済ませてチャレンジしてみてください。
最初に呼吸法やストレッチを教えて
いただき、最後は瞑想の時間です
また、温泉で体を温めたあとにはマッサージが有効です。「界 川治」では、国家資格者による施術が客室で受けられます。よりよい眠りに導く「癒しのマッサージ」と凝った筋肉をもみほぐす「ゆるみのマッサージ」と2つのタイプをご用意。事前予約がおすすめです。
「里山」をコンセプトにした施設やお部屋をご案内
「里山」をコンセプトにした「界 川治」。重厚な門をくぐると、目に入ってくるのは水車です。ゆっくりと回るその様子を見ていると、日常の慌ただしさをすっかり忘れるよう。水車小屋「紅琉庵」の中は自由に入ることができ、ゆっくりと過ごせます。
地下水で動かす水車で100kgの石臼を回します
チェックインはひょうたんのランプが灯るロビーで。大きな窓から眺める木々が、美しい季節を知らせてくれ、ここから非日常の時間が始まります。
取材に訪れた時はちょうど
紅葉が美しい季節でした
ウェルカムドリンクには「黒豆ほうじ茶」
ロビーには100個のひょうたんランプが灯り、
夜は幻想的な雰囲気です
大田原産の竹を使ったひょうたんモチーフ
の飾り。「界 川治」の館内のあちこちで
ひょうたんを見つけることができます
「界」では、その土地の文化を体験できる「ご当地部屋」がありますが、ここ川治で用意されているのは、最上階に7部屋ある「野州麻紙(やしゅうまし)の間」。日本で唯一麻を原料にして漉いた、上質な和紙を使った設えが特徴のお部屋です。ベッドボードは、里山の四季の情景を表現した麻紙が彩ります。私が滞在させていただいたお部屋は、収穫をイメージして稲穂を漉き込んだデザイン。ほかにも男鹿川の清流をイメージしたものなどがあるそうです。また、麻の繊維が絡まった「結(ゆい)ライト」、壁には栃木の名産かんぴょうを漉き込んだ麻紙のタペストリー、ライトにもなるサイドテーブルと、麻紙の素朴な感触や、光を通したときのやさしい風合いを楽しめます。また、すべての客室のベッドに界オリジナルマットレス「ふわくもスリープ」が採用されているほか、窓際にはデイベッドのような「ごろんとソファ」が備わります。ごろんと寝転んで窓からの景色を楽しんでほしいと作られたものです。
男鹿川を望む「野州麻紙の間」
(左上から時計回りに)稲穂のベッドボード、
結ライト、サイドテーブル、タペストリー
冬の食材を堪能する「味噌牡丹鍋」の夕食
全国の「界」ではその土地の冬の食材を堪能できる「ご当地鍋」をご用意しています。川治では栃木の山里の滋味豊かなジビエをイメージした「味噌牡丹鍋」が夕食の献立のメインとなります。この日いただいたお料理をいくつかご紹介しますね。
先付は豆を敷き詰めた升の上に供された「あわもち」。モチモチとした食感のあわもちが、田楽味噌と絡みます。
「甘鯛と茸の清流仕立て」のお椀は、皮目をあぶった甘鯛が香ばしい一品。白シメジ、ナメコ、ヒラタケとキノコもたっぷり。
八寸やお造り、酢の物はひとつのお膳で出されます。少しずついろいろな味わいを楽しむことができるうえ、籠に盛られた八寸など、見た目もとても華やかで心憎い演出です。
ご当地鍋の「味噌牡丹鍋」。イノシシ肉を、胡桃味噌やジュウネ(エゴマのこと)味噌、田舎味噌など5種類の味噌を使った出汁で煮込みます。イノシシのお肉は臭みもなく、味噌の濃厚な味わいとよく合い、種類豊富なキノコ、栃木県産の水菜や白髪ネギもふんだんに入ります。イノシシのお肉はビタミンB1やB2、鉄分が豊富で、疲労回復に有効だそうです。スタッフが目の前で鍋を作ってくれるのもうれしいです。
また、朝食では川治の昔話にまつわる献立が味わえます。ひとつは「鬼子蔵汁(きしぞうじる)」。サツマイモやカボチャ、ゴボウ、ニンジン、油揚げ、餅などと、とにかく具だくさんのひと品。とても食べ応えがあります。もうひとつは「とばっちり」という名前で、かんぴょう、ニラ、温泉卵、蕎麦が入ったお料理です。どんな昔話かは、お泊まりいただいたときのお楽しみに! 朝食のテーブルの上にお話が書かれた紙が置かれていますので、宿泊時にご確認くださいね。
鍋仕立てで出される鬼子蔵汁。
やさしい味わいです
栃木の名産かんぴょうが入るとばっちり。
よく混ぜていただきます
里山工房で体験できるふたつのお楽しみ!
それぞれの地域の文化や魅力を体験できる「界」オリジナルの特別なおもてなし「ご当地楽」。川治ではロビー横に里山工房という空間があり、そこで「烏山(からすやま)和紙漉き体験」と「きな粉づくり体験」が楽しめます。
石臼や民具が並べられた里山工房
烏山和紙は栃木で1200年以上も受け継がれてきた伝統工芸品。那須楮(こうぞ)を原料に昔ながらの技法で漉いた和紙は、とても分厚く丈夫。今も県内の学校の卒業証書などに使われているそうです。
紙漉き体験は16時から17時
(最終受付16時45分)に先着順の予約制
スタッフの指導のもと、「溜め漉き」の方法ではがき作りに挑戦! 楮の溶けた水の中で何度も漉いて、型から取ったあと、水を切ります。乾燥させて完成したものは、翌日チェックアウト時のお渡しとなります。
きな粉づくり体験は里山工房に置かれた石臼を使って行います。黒豆や青大豆など4種類の豆からお好きな豆を選び、スプーンで3杯ほど取り出します。それを石臼の穴に少量入れ、石臼を反時計回りでゆっくりと回します。
ゴリゴリ、ガリガリと音がするものの、最初はなかなかスムーズに回りませんが、次第に大豆のよい香りが立ってきます。だんだん滑らかに石臼も回りだし、石臼の間からきな粉がはき出されてきます。これを刷毛で集めて完成です。
お持ち帰りもできますが、16時~18時、9時~12時の間には、きな粉に合う和菓子が用意されますので、ぜひ挽き立てのきな粉を味わってみてください。
体験時間は15時~20時、9時~12時。石臼は3台あり、重さがそれぞれ異なります。重いものほど細かく挽けます。
さらに充実した「うるはし現代湯治」のプログラムと、栃木ならではの里山体験が楽しめる温泉旅館「界 川治」での滞在はいかがでしたでしょうか? 日常の慌ただしさからひととき解放され、四季折々の自然と渓流のせせらぎに癒されてみませんか。
星野リゾート 界 川治
〒321-2611 栃木県日光市川治温泉川治22
界予約センター(9:00~20:00)
0570-073-011
料金:1泊2食付き、2名1室利用時
1名18,150円〜(税・サ込み)
取材・文:山本 厚子