阿蘇くまもと空港から約1時間30分。街中を抜け、阿蘇スカイライン、やまなみハイウェイを走りぬけ、草原と山並みを眺めながらのドライブは何とも言えず爽快。もうこれだけで、都会を離れてきた甲斐があると思わせます。
そして到着した「星野リゾート 界 阿蘇」は8000坪の敷地にわずかに12棟の離れが点在するという贅沢な造り。まずは本館へ。本館は食事処と暖炉を備えたトラベルライブラリーがあり、暖炉の炎を見つめながらしばし休憩です。
テラスに出れば、溢れんばかりの樹木、そして標高1000mの美味しい空気。晴れていれば阿蘇五岳が目の前に広がります。どの「界」とも異なる大自然リゾートを実感できます。では森の中に点在する客室へ向かいましょう。
全室露天風呂付という優雅な滞在
広々とした客室には、柔らかな風合いの草木染のクッション、阿蘇の溶岩などを釉薬とする溶岩茶器、小国杉のテーブルや日田の下駄など、阿蘇と大分近隣の素材がさりげなく配されています(じつは所在地は大分県なのです)。
そして全室に備わるのが森にせり出すように設けられた露天風呂! いつでもゆっくりと温泉を楽しめるわけですが、早速入浴。2本の源泉を合わせた弱アルカリ性の単純温泉は肌にやさしく、なおかつ「おこもり紅葉温泉」というプランでは大量のカボスが用意され、香りでも癒されます。手足を伸ばして、極楽極楽! 風呂用枕や防水ブックカバーも用意されていますので、湯船に入ったり出たりしながら、読書もいかがでしょう。鳥のさえずりや風のざわめきを感じる昼もいいのですが、夜はなんと、かがり火が灯り幻想的な雰囲気に。静けさの中で時間が経つのも忘れます。
そしてこのプランでは、スペシャルなコーヒーセットが用意されています。豊かな水源が自慢の阿蘇。名水百選の白川水源の水、九重連山の玖珠の恵、硬水の天然炭酸水という3種類の異なる水と3種類の異なるコーヒー豆で、豆を挽きハンドドリップでその味わいの違いを楽しむことができるのです。合計9種類の組み合わせ・・・一度では体験しきれないですよね、ですので湯上り後、夕食後、朝一番、朝食後などその時の気分で組み合わせを考えて、お気に入りの一杯を見つけてください。
味噌・チーズ・牛肉の三位一体鍋
お楽しみの夕食、本館へ向かいます。「阿蘇のねたくり鍋」、想像できますでしょうか?ねたくりとは、こすりつけるという方言。ジャージー乳を使ったスープに阿蘇の伏流水で仕込んだ幻の味噌といわれる創業260余年の山内本店の味噌を鍋のふちにねたくり、徐々に混ぜ合わせます。そして、焼き目を付けた阿蘇ミルク牧場のチーズ・カチョカヴァロを野菜とともに投入。ここに和牛をどどん! 赤・白・麦をブレンドした長期熟成味噌のコクと優しい牛乳が和牛を引き立て、カチョカヴァロはお餅のような食感で味わいを深めてくれます。なかなか面白い鍋を考えたものです。ほかには松茸の土瓶蒸しや酒肴の八寸、馬刺しや大分の鮮魚など、盛りだくさん。そして場所を移して、暖炉の前でデザートで締めくくります。
ほかには松茸の土瓶蒸しや酒肴の八寸、馬刺しや大分の鮮魚など、盛りだくさん。そして場所を移して、暖炉の前でデザートで締めくくります。
カルデラを理解するご当地楽
阿蘇山は阿蘇五岳と呼ばれる山々と、阿蘇カルデラという東西18㎞、南北25㎞の世界有数の巨大カルデラを有しています。このカルデラは約27万年から9万年前の間に起きた巨大火砕流噴火によりできたものです。こう説明しても、カルデラの成り立ちってイメージがつかめませんよね。そこでご当地楽として「カルデラBAR」でカクテルを飲みながらカルデラの正体について学ぶ体験ができるのです。
カルデラって、スペイン語、活火山という自然の脅威があるとともに、人々の生活が築いた牧歌的な風景や東京ドーム400個分の草原地帯による豊かな自然の恵みがあることなどのレクチャーを、地元の焼酎や柑橘類でつくる爽やかな味わいのカクテルと赤牛のジャーキーをいただきながら、お勉強。さらに「マイカルデラ」をつくる実験も。膨らませた風船の上に小麦粉をかぶせます。小麦粉を山盛りかぶせ、風船に竹串を刺してゆっくり割ります。そう、風船がマグマで、小麦粉が大地です。まるで噴煙を上げるように風船がしぼむと、小麦粉の窪みが出来上がりカルデラに。なるほど、言葉で説明するよりも分かりやすい! カルデラってこういう仕組みなんだと、ガテンでした。「カルデラBAR」は16時30分~18時30分、実験は3回。
黄金のすすきの中で乗馬体験
翌朝は7時からのカルデラ体操に参加してみましょう。本館のテラス(雨天の場合は玄関前)で深呼吸とストレッチで体と心を整えます。朝の空気はなお一層美味しい!食欲ももりもりと目覚めます。
朝食は先付や焼き魚など種類豊富なメニュー。そのなかには熊本の郷土料理「一文字ぐるぐる」もあります。これはわけぎをぐるぐる巻きにして酢味噌でいただくものですが、熊本の居酒屋でよくお目にかかるもの。朝食用に上品に仕立てられています。そしてメインは土鍋の炊き立てご飯と温泉玉子を使った玉子かけご飯。ご飯おかわり、必須です。
さて12時のチェックアウトまで、温泉入浴もよし、ただぼーっとしているもよし、さらにおこもりしましょう。「星野リゾート 界 阿蘇」はどの「界」よりもプライベート感が半端ないので、「私を放っておいてほしいの」という方や「二人だけにしておいて」という方にも満足なのです。
チェックアウト後は事前予約制の乗馬体験はいかがでしょうか。秋空の下、黄金色に輝くすすきの高原を駆ける「金色乗馬」は、宿の近くにあるエルパティオ牧場と提携するオリジナルのアクティビティです。約1時間、乗馬のレクチャーのあとに、トレーナーの方と一緒にホーストレッキングに出発。
起伏のある山道を馬にまたがり進みます。まわりは一面のすすき、太陽に照らされきらきらと輝いています。阿蘇五岳や九重連山を背景に、季節が進むにつれてすすきは黄金色に輝くのでしょう。よく調教された馬は初心者の私でも、しっかりと進んでくれます。右に進みたいときは手綱を右へ、左に進みたいときは左へ引き、馬を怒るときは勢いよく手綱を上に引っ張ります。ちなみに怒るときは、あまりにも気持ちよくて周囲を見回している私の隙をついて、馬が道草して草を食べているときなのですが、これって、馬のせいというより私のせい。上り坂は前傾姿勢で、下り坂は体を後ろに倒してといった指示も、随時トレーナーから声がかかるので、安心。乗馬といえばフィットネスマシーン、乗馬より競馬という私でも本当に気持ちよく、このまま走り出してしまいたい(絶対にやめましょう)くらいでした。この爽快感は、阿蘇だからこそ。雄大な自然と一体になれる最高の体験でした。
阿蘇くじゅう国立公園内という恵まれた自然の中にある「星野リゾート 界 阿蘇」。2016年、熊本地震や爆発的噴火があり、確かに被害も出ましたが、阿蘇は噴火するから怖いと敬遠されている方がいたら、もったいない。ここでしかできない滞在や阿蘇の自然が教えてくれる恩恵にきっと出会えるはずです。
<星野リゾート 界 阿蘇>
大分県玖珠郡九重町湯坪瀬の本628-6
「おこもり紅葉温泉」実施期間:~2019年10月31日
料金:1泊2食付き 47407円~(2名1室利用時の1名料金、サービス料込・税別)
「金色乗馬」実施期間:~2019年11月30日
料金:ひとり15200円(税込み)
予約:0570-073-011 (5日前までに申し込み)
取材・文/関屋淳子 撮影/山本厚子