こぎん刺しの美をアレンジ、和洋ふたつのご当地部屋
桜の名所として有名な弘前城がある弘前からJR奥羽本線で二つ目の駅が、大鰐温泉駅です。送迎バスに乗り、10分ほどでリンゴ園に囲まれた「星野リゾート 界 津軽」に到着。「弘前からこんなに近いとは!」が第一印象。そしてロビーには日本画の巨匠・加山又造の「春秋波濤」の陶板壁画が出迎えてくれます。津軽海峡の波濤と、弘前の桜・八甲田山の紅葉を大胆な構図で描いた作品は、津軽の動と静を表現しているようで、目を奪われます。
客室は和室、洋室、和洋室、離れがあり、その土地の文化を体験できるご当地部屋が33と充実。そのいずれの部屋にも青森の伝統工芸「こぎん刺し」が魅力的にデザインされています。こぎん刺しとは、麻布に木綿糸を刺す刺し子の技法。寒冷な津軽地方では木綿が育たず、農民は麻布を仕事着としており、目の粗い麻布に木綿糸で布地の目を埋めて刺しゅうを施すことで、保温性や強度を高めました。施された刺繍は、ひし形を中心とする幾何学模様で、模様を組み合わせることで、美しいデザインが出来上がります。
各客室の入り口には、こぎん模様の明かりが灯り、和室にはこぎん模様の障子やテーブルランナー、洋室には天井に浮かび上がるこぎん模様の照明など、素朴さとスタイリッシュさがあふれています。これらは"用の美"として注目されるこぎん刺しをグラフィックデザイナーの視点で発信している山端家昌さんの手によるもの。「kogin」として新たな魅力が広がっています。
庭園と露天風呂付き離れで満喫する「津軽こぎんの間 紅葉滞在プラン」
1室限定の離れ悠庵、この素敵なご当地部屋で紅葉を愛でながら津軽文化を体験できる特別プランを楽しんできました。専用の庭園と露天風呂がある数寄屋造りの離れで、客室に併設された茶室に驚くべき仕掛けがありました。チェックイン後、茶室には炬燵が設置され、リンゴ茶と小菓子が用意されます。そして、庭に面して開け放たれた戸の先では、離れの宿泊客だけに演奏される、津軽三味線の生演奏が‼
色づく木々に囲まれて響き渡る津軽三味線の生の音。津軽じょんがら節発祥の地・黒石市出身で、平成24年に津軽三味線全日本金木大会で優勝した渋谷幸平さんの力強く、激しい演奏が、ズンズンと胸に響きます。そして風の音や鳥の声と呼応するように音が広がり、澄み渡る空へのぼっていきます。この時間と空間を独り占めできるとはなんという贅沢な体験でしょう。
さらにこの茶室は、夜は「こぎんBAR」に変身します。こぎん模様の明かりのもとで、青森の名酒を楽しみます。いただいたお酒は青森県最古の蔵、竹浪酒造の3銘柄。錫製のチロリで温め、燗酒で。じつは私、関屋は以前、こちらの蔵元の取材をしたことがありました。岩木川の伏流水で仕込む濃厚辛口の酒は燗酒にしてこそ美味しいという強い信念をお持ちで、その通り、燗酒でいただくと香りと味わいが花開きます。良き酒に酔いしれて、秋の夜長を慈しみました。
美肌を生み出すりんご風呂と、大間の鮪づくしの夕食
大鰐温泉は江戸時代には津軽の人々の湯治場として利用された温泉で、泉質はナトリウム-塩化物・硫酸塩泉で、体の芯から温まり、肌にやさしいお湯です。大浴場には樹齢2000年を超える古代檜の湯殿があり、開け放たれた庭を望みます。秋の深まりとともに木々が燃えるように色づき、秋冬には特産のリンゴを浮かべたりんご風呂となり、檜とリンゴの甘い香りが漂います。温泉とリンゴの相乗効果が美肌効果を高めてくれそうです。夜には冷酒も用意され、お湯につかりながら月見で一献、紅葉狩りで一献が楽しめます。
温泉でほっこりしたあとは、お楽しみの夕食。特別会席の「大間の鮪づくし」を堪能します。
先付には鮪と長芋のあられ和え、雲丹もトッピングされています。お造りはもちろん鮪三昧。赤身、たたき、中とろで、たたきは海苔に巻いて海苔の風味とともに味わいます。さっぱりとしたなかに旨みが凝縮する赤身、口の中でふわりととろける中とろ。それぞれの個性を味わいます。
そして台の物はねぎま鍋。ねぎま鍋は江戸時代、保存技術も乏しく、脂肪が多く傷みが早いとろの部分を葱とともに鍋に仕立て、脂を落として賞味したもの。とろを鍋にするなんて! 現代では贅沢なごちそう料理ですね。醤油仕立ての出汁つゆでいただく鮪は、豊かな香りと食感があとをひきます。鍋の具材には大鰐温泉で育てた「大鰐温泉もやし」も入っています。鮪料理の締めくくりは握り寿司。黒マグロの本領発揮です。
ご当地の魅力・津軽三味線とこぎん刺しを体験
夕食後、ロビーでは渋谷幸平さんと宿スタッフによる津軽三味線の生演奏が開かれます。渋谷さんの指導を仰ぎ、プロ顔負けの技を見せるスタッフのおひとりは、先ほど食事処で私たちを担当してくださった方。その土地の文化を学び披露するスタッフの姿に感動です!ショーの最後には渋谷さんの手ほどきで希望者に簡単な曲を教えていただきます。三味線を持ち、撥で叩きながら「さくらさくら」を弾いてみます。(簡単に弾ける部分だけですが)意外にやさしい!そして面白い!
もうひとつの手わざ・こぎん刺しも体験します。無料体験はしおり製作です。麻布のしおりに、お手本の絵柄を見ながら刺していきます。こちらは意外に難しい...。布の中央に針を刺し、絵柄の中央部から刺し始め、上半分を仕上げ、下半分を仕上げます。元来の不器用さが露呈して、目を数え間違えてしまったりと四苦八苦。冷や汗の私を尻目に、器用な多田さんはスイスイと仕上げていきます。でもこれって、練習だったんだよね。
翌日は本場・弘前で活動する工藤暁子先生の指導で、小物作り。リンゴや桜、マリーゴールドなどで染めた草木染の糸を使って、刺していきます。とにかく一心不乱に集中し(ふたりともほとんど無口でした)、なんだか無心になれる体験。とにかくよく刺し間違える私。でも間違えたら戻ることができるのもありがたい感じです。綺麗に仕上げるコツは糸をふっくらと盛り上げることだとか。草木染のグラデーションで、出来上がった作品はとてもよく見えました(笑)。こぎん刺し体験は10時〜12時(平日のみ)、フロントで前日20時までの予約制、費用は1000円〜2000円。ぜひ、チェレンジしてみてください!
今回ご紹介した「津軽こぎんの間 紅葉滞在プラン」は11月15日まで。青森・津軽の短くも美しい秋を満喫してみてはいかがでしょうか。
1泊2食付き 1名あたり50,000円〜(2名1室利用、税サ込)、7日前までにHPで予約。
(取材・文/関屋淳子)