2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、ますます激化の様相を呈し、ウクライナの悲惨な現状を伝えるニュースに心痛めている方も多いことでしょう。ウクライナには、文化遺産と自然遺産を合わせて7件の世界遺産がありますが、今回の侵略を受けて、数多くの文化財にも被害が出ていることは残念です。
キーウにある世界遺産の「聖ソフィア大聖堂」は、
13のドームをもつ、キーウ最古の聖堂。(Photo by iStock)
3月31日には、ウクライナ支援、並びにウクライナとの連帯を示す手立てとして、日本政府は、首都「キエフ」の呼称を「キーウ」に変更しました。ウクライナの地名表記をロシア語の発音に由来する従来の呼称からウクライナ語の発音に近い表記に変更するとしたものです。2019年の世界遺産員会では、すでにロシア語の発音に基づく「Kiev」からウクライナ語の発音に基づく「Kyiv」へと変更されていましたが、日本語表記も今回の政府の方針を受けて、1990年に登録された世界遺産「キエフ:聖ソフィア大聖堂と関連する修道院建築物群、キエフ-ペチェールスカヤ大修道院」は、「キーウ:聖ソフィア大聖堂と関連する修道院建築物群、キーウ-ペチェールスク大修道院」へと見直されることになりそうです。
世界遺産「キーウ-ペチェールスク大修道院」は、
11世紀に建立されたウクライナ正教の総本山。(Photo by pixabay)
今年6月19日~30日に予定される世界遺産委員会は、ロシアのカザンにてロシアを議長国に開催されることになっており、多くの世界遺産条約加盟国から反対の声が挙がっていました。かつてSARSや騒乱の影響で開催地がパリのユネスコ本部へ変更されたことがあります。また2年前には中国福州市での開催予定が新型コロナの影響で中止、昨年はオンラインで実施されました。開催地の変更はこれまでにも行われてきましたが、その場合でも議長国は変更されていません。
今回、ロシアでの開催反対を表明している国々は、ロシアを議長国としても認めておらず、開催地変更や議長国変更などに注目が集まっていました。そして開催60日前の変更手続き期限を迎え、無期限に延期されることに決定しました。今後の開催は不透明ですが、世界遺産の保護や修復などの課題が先送りされないよう、ウクライナとロシアの一刻も早い停戦が待ち望まれます。
第45回世界遺産委員会の開催地だったカザンは、
ロシア連邦・タタールスタン共和国の首都。(Photo by pixabay)