十和田湖の南西、青森県との県境にある小坂町は、明治時代に日本一の鉱山額を誇った小坂鉱山で栄えた地です。
江戸末期に銀鉱が発見、明治になると近代技術が導入され、大阪の豪商・藤田組に引き継がれます。しかし銀鉱石の枯渇や日清戦争後の銀貨暴落などにより、閉山の危機が訪れます。そのようなときに、黒鉱という様々な鉱物が入る鉱石から銅を取り出す製法を完成させ、銀から銅山への転換を図りました。立役者は久原房之介、のちに日立製作所などの事業基盤を作った人物です。小坂は足尾(栃木)・別子(愛媛)とともに日本三大銅山と称されます。
そんな小坂銅山の絶頂期、明治43年(1910)に造られたのがこの「康楽館」です。従業員の福利厚生施設として誕生しました。日本最古の現役の木造芝居小屋として重要文化財に指定されています。白い下見板張りの板壁や上げ下げ式の窓という洋風の外観ですが、内部は桟敷や花道、回り舞台、すっぽんという伝統的な芝居小屋。座布団の並ぶ桟敷から見上げれば、天井は洒落た洋風の格縁天井という、みごとな和洋折衷なのです。また小屋の照明は当初から電灯が使われていたといいます。
この芝居小屋のすごいところは、常設で芝居公演があること。おまけに夏には、松竹大歌舞伎が行なわれます。以前、観賞したことは今もよく覚えています。役者の顔が近い、立ち回りの迫力がすごい、舞台と桟敷が一体となる熱気、感涙でした。新型コロナウィルスの影響で、大歌舞伎の巡業も2019年以降行なわれていませんが、今年は何とか開催してほしいと思うばかり。
康楽館では、ガイド付きの施設見学も行なわれています。回り舞台や奈落などを巡り、楽屋にも。楽屋の壁には役者さんの落書きが残され、通路には過去に上演されたポスターも。名優やスターがここを通り、楽屋を使ったかと思うと感慨もひとしおです。
小坂町には、優美な螺旋階段をもつ旧小坂鉱山事務所、鉱山従業員家族の幼児教育機関として建てられた天使館などもあり、見ごたえ十分。鉱山で栄えた町というと、今は寂れて…というイメージですが、2007年からリサイクル製錬をはじめ、スマホやパソコンなどの電子機器から金銀プラチナ、レアメタルも回収しています。世界に誇る技術を活かした都市鉱山として、大きく注目されているのです。
写真:秋田県観光連盟