「やさしい温泉」人、動物、地球にも! by 西村理恵

第15回 完熟堆肥で野菜が元気!「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」(熊本県・南小国町)

©熊本県観光連盟 黒川の冬の風物詩「湯あかり」。
放置されていた竹林の整備も兼ね10年前より開催

1986年、日本でも指折り早くに入湯手形による露天風呂めぐりをスタートした黒川温泉。その財源を元に、温泉街の植樹や田の原川の水質改善活動を行い、樹林きらめく美しい景観が復活しました。温泉街全体が一丸となって取り組んだこの「黒川温泉一旅館」の活動により、黒川は世界に知られる温泉地として発展していきました。

黒川の温泉地づくりのモトとなった小国杉の「入湯手形」。
使用後は温泉街の中心にある地蔵堂に奉納する人も

そして今年、黒川温泉では、近い将来を見据えて「黒川温泉2030年ビジョン」を策定。地域資源を活用し「里山の豊かさが循環する温泉地」を目指すとしています。

黒川温泉のある阿蘇くじゅう地域には、雄大な風景や豊かな農畜産物、温泉など、多くの地域資源があります。その中で「食」を軸とした活動がはじまっています。まずは「あか牛“つぐも”プロジェクト」。阿蘇の草原で放牧されているあか牛を、黒川の加盟店で食べるごとに150円がプロジェクトへ寄付され、草原飼育や景観保持に使われるという内容です。

さらにもう一つの大きな活動が「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」。旅館から出る生ゴミを堆肥にして、地元農家や畑を持つ旅館にお渡しし、その畑で育った野菜を、お宿の料理や黒川の特産品づくりに活用していこうというプロジェクトです。

昨年は2000リットルの堆肥を作り、ほとんどを農家やお宿の畑に配付。
残りをネットショップや旅館組合の売店でも販売しました(現在は完売)

コンポストアドバイザーの鴨志田純氏やサーキュラーエコノミー研修家の安居昭博氏らの指導の元、生ゴミのほか黒川温泉から20キロ圏内にあるもみ殻や落ち葉、温泉などを加えて、適宜かき混ぜながら二次処理を行い、質のいい完熟堆肥を作ります。「2回目となる今年は、10軒前後の旅館さんが参加する予定です。実践し学びながら小さな循環をつくっていこうと考えています」とプロジェクトを主導する黒川温泉観光旅館協同組合の事務局長、北山元さんが話してくれました。

この堆肥を使って栽培した御客屋旅館のキュウリは、チッソ分が通常の7分の1。苦みが少なく甘味のあるおいしいキュウリに育ったのだそうです。

黒川完熟堆肥で育った御客屋ファームの野菜たち。
カブ・ズッキーニ・サニーレタス・サラダ菜・ほうれん草・とうがらし・ヤングコーンなど

御客屋旅館は「半農半宿」を掲げる歴史の宿。温泉街から少し離れた場所に何カ所かの畑を持ち、農業部門を立ち上げて、多品種の野菜を作っています。黒川温泉の完熟堆肥で育った野菜は、味が濃くて色もツヤツヤ。何より安心感があります。放牧牛のあか牛や、ケージフリーで飼育されている肥後赤鶏など、動物福祉に配慮した畜産物を使用しているのも嬉しい限り。堆肥プロジェクトで中心的な役割を担っているお宿と言えます。

取材時の夕食一部。前菜の甘長とうがらし、キュウリ、天ぷらの万願寺は黒川の完熟堆肥で育った野菜。
前菜のビーガンマヨネースが野菜の滋味深さを引き立ててくれます

温泉宿を中心に、地域も一体となって取り組んでいる食のプロジェクトは、これからの黒川温泉にとって大きな財産となりそうです。

黒川温泉

電話:0967-44-0076(黒川温泉観光旅館協同組合)住所:熊本県阿蘇郡南小国町満願寺6594-3

https://www.kurokawaonsen.or.jp

歴史の宿 御客屋

電話:0967-44-0454 住所:熊本県阿蘇郡南小国町大字満願寺6546

http://okyakuya.jp

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