コロナ禍で昨年開催されなかった世界遺産委員会ですが、今年は7月後半にオンラインで実施されました。昨年と合わせて2年分の審議が行われ、自然遺産5件、文化遺産29件が新たに世界遺産に登録され、その総数は1,154件となりました。コロナの感染拡大や東京でのオリンピック開催のニュースに隠れ、あまり目立ちませんでしたが、日本でも「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」と「北海道・北東北の縄文遺跡群」が無事登録されました。
今回の世界遺産委員会では、残念なことに、オマーンの「アラビアオリックスの保護区」、ドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」に続いて3例目の登録抹消となった世界遺産がありました。イギリスの「海商都市リヴァプール」です。
世界遺産から登録抹消されたリヴァプール(Photo by Pixabay)
ビートルズの出身地として知られるリヴァプール。イギリス西海岸に位置するこの港町は、18世紀にイギリスで産業革命がおこると、海外の植民地から原料を輸入し、加工品を輸出する海洋交易の拠点として大いに栄えました。18~19世紀の大英帝国の繁栄の歴史を今に伝える遺産として、ピア・ヘッド、アルバート・ドックなど、倉庫や港湾施設を中心にリヴァプール市街の6つの地域が2004年に世界遺産に登録されました。
「スリー・グレイシズ(三美神)」と呼ばれる3つの建物が並ぶピア・ヘッド(Photo by Pixabay)
ところが、2010年にウォーターフロントの再開発計画が持ち上がり、歴史的景観が著しく損なわれるという危惧から2012年には危機遺産リストに登録されます。イギリス政府は一部縮小などの提案を行ってきましたが、世界遺産委員会では十分ではないと認められませんでした。2020年には世界遺産に隣接してサッカー・スタジアムの建設が認可されるなど、再開発計画に歯止めがかからず今回の決定に至ったようです。世界遺産であるということと、住民の生活向上や経済を優先した施策が相容れないことは、これまでもたびたび起こってきた難しい問題です。
倉庫が集まるアルバート・ドック(Photo by Pixabay)
また、タンザニアの自然遺産「セルー・ゲーム・リザーブ」についても登録抹消の議論が行われました。この地は、アフリカゾウやスイギュウ、ヌー、シマウマなど野生動物の楽園ですが、密猟や水力発電所の建設などが問題視され、危機遺産となっています。タンザニア政府が、密猟監視の強化や環境アセスメントの実施などを約束したことで、今回の委員会では登録抹消は見送られましたが、今後改善が見られないと再度登録抹消が議論されることになるでしょう。