和歌山県岩出市。失礼ながらなんの観光施設もない、ありふれた地方都市にあるレストランが、いま世界のガストロノミストの注目を集めているのをご存じでしょうか。
その名は「villa aida(ヴィラ アイーダ)」。オーナーシェフの小林寛司さんと、サービス担当のマダム・有巳(ゆみ)さんが営む、畑に囲まれた一軒家の農家レストランです。
オーナーシェフの小林寛司さん。予約時に希望すればファームを見学できます
自身を「農家で料理人」という小林さんは、植物の声を聞ける人。レストランからすぐそばの畑で育てている野菜やハーブと毎日触れ合い、その日の葉っぱのやわらかさや実の大きさ、芽のみずみずしさからメニューを創り上げていきます。「料理を決めるのは畑の野菜たち。僕はそれをかたちにするだけです」と。
ダイニングへ移動する前にスパークリングワインと共に振る舞われる前菜
そんなアイーダの料理は、もちろん野菜が中心。といってもストイックなビーガンやベジタリアンではなく、コースの流れの中で、肉や魚も自由に使われます。ただしどのお皿も主役は野菜。動物性のうま味は、野菜やハーブの繊細な味わいと、お互いを引き立て合っています。
フェンネル、ローズマリー、オゼイユの花が香るアオリイカ
一日一テーブルのみのスタイルで、窓から差し込む光や風まで計算したような美意識を感じるダイニングも、そこにさりげなく飾られた野の花も、到着時間に合わせて畑から摘まれた野菜やハーブも、いまこの時の畑でしか味わえない一期一会の料理も、ゆったりとした心地よいソファも、すべてがわたしのためだけに心を尽くし、時間と手間をかけて整えられたもの。これほど大切にしてもらえるという自己肯定感と多幸感。なんだか夢と現実の間をふわふわと漂うような時間が流れていきました。
和歌山の古民家の廃材などをリメイクした美しい大テーブル
2021年版「アジアのベストレストラン50」で64位、世界の野菜料理店を表彰する「Top 100 Best Vegetables Restaurants 2019」で17位、辻静雄食文化賞の専門技術者賞を受賞、さらに和歌山を代表するクリエイターとしてApple社のCMにも出演と、世界的躍進が止まらない小林さん。一方で、伝統的炭焼き職人や、原種を守る柑橘農家など、和歌山でがんばる生産者を熱心に応援しています。
食べれば食べるほどとりこになるアイーダの野菜料理。
次に行けるのはいつだろうと考えると、禁断症状が出てしまいそうです。
<データ>
villa AiDA http://villa-aida.jp
予約方法は公式サイトに案内が記載されています