日本で初めて設立された西洋美術中心の美術館はどこにあるかご存じですか?
実は岡山県倉敷市の「倉敷美観地区」にある、大原美術館が日本で初めて生まれた西洋美術中心の私立美術館なのです。
入口の巨大な柱が印象的
1930(昭和5)年に設立された大原美術館は、実業家の大原孫三郎によって創立されました。現クラボウ(倉敷紡績)や現クラレ(倉敷絹織)を設立し、大原財閥を作り上げた財界人です。
ところで、美術館巡りでしばしば思うのですが、大原氏を始め、東武財閥の創設者・根津嘉一郎による根津美術館(東京)、東急電鉄を創設した五島慶太による五島美術館(東京)、以前ご紹介した足立美術館(島根県)、実業家であり男爵だった藤田伝三郎による藤田美術館(大阪/2022年4月リニューアルオープン予定)など、財閥や実業家による美術館が日本になんと多いことか!これらの美術館が造られたのは昭和初期~昭和30年代が多いのですが、第一級の美術品を日本で見られるのはとてもありがたいなと思います。
さて、大原美術館です。美術館設立にあたり、西洋画には詳しくなかった孫三郎の右手となってコレクションの収集を任されたのが、大原家の奨学金制度に応募してきた洋画家の児島虎次郎でした。1908年(明治41)に虎次郎は初めてのフランス留学の機会を得てパリへ渡り、そしてサロン入選など日本人洋画家としてパリで認められました。2度目の欧州留学でスペイン、イタリア、イギリス、フランスへ行き、今度はパリのサロンで正会員にも認定されました。この時代に凄いことです!
入館は16:30までだが、夜の外観も美しい
そして次に虎次郎は、大原家に資金提供を依頼して西洋画の収集をも手掛けるようになりました。大原家のためにクロード・モネの《睡蓮》、今は大原美術館を代表する絵画のひとつであるエル・グレコ《受胎告知》、ゴーガン、ミレー、ロダンなど、数度の欧州渡航にて虎次郎は自分の感性と信念によって丁寧に作品を選び、収集を続けました。日本にいる孫三郎自身、彼が初めて耳にする画家もきっといたことでしょう。しかし、虎次郎との直接の電話連絡もままならない時代、大金をかけて作品買い付けを遠い海外にいる虎次郎に託すわけですから、孫三郎と虎次郎の厚い信頼関係がうかがえます。
【画家の参考までに】ピエール=オーギュスト・ルノワール《読書》パリ・ルーブル美術館/
ポール・セザンヌ《サント・ヴィクトワール山》NYメトロポリタン美術館/
ポール・ゴーガン《イア・オラナ・マリア》NYメトロポリタン美術館
虎次郎の収集を礎に昭和5年に誕生した大原美術館では、セザンヌ、ルノワール、モネ、モローなどの西洋画、虎次郎や関根正二などの日本の洋画家、古代オリエントやイスラムの古美術品などを見られます。美術の教科書で見るような作品が展示室を移動する度に次々と目に飛び込んできます。
また、併せて素晴らしいのは、米蔵を改装した工芸館に展示されている、濱田庄司や河井寛次郎らの民藝運動ゆかりの作家の陶器や、板画家・棟方志功の木版画など。黒光りする柱や天井に趣を感じる建物で見るこれらの作品は、建物含めてまるで美術作品のようです。また、ベンガラ色の外壁が印象的な展示室で、染色家の芹澤銈介の作品も鑑賞できます。明治生まれの芹澤銈介の作品は、柄も色合いも新鮮で今見てもとってもモダン!
工芸・東洋館(画像提供:大原美術館 ※画像の転載・コピー禁止)
ギリシャ神殿のような巨大な柱が印象的な大原美術館。ミュージアムショップも充実しているので、倉敷観光の際にはぜひ訪れてみてくださいね。
夕方の倉敷美観地区はとても幻想的
大原美術館 https://www.ohara.or.jp/