水郷・柳川。
福岡県の南部に位置する市で、南側は有明海に面しています。
柳川はかつて柳川藩が置かれていた城下町でした。
一体が湿地であったことから、江戸時代に入り本格的な治水・干拓事業が進められ、
生活用水や農業用水として使用するためのシステムができたのだそう。
市内には往時を忍ぶ掘割が今も残っており、その全長はなんと470km!
長い長い掘割の両側には風情あふれる風景があります。
掘割を十二分に満喫するのにおすすめなのが、川下り。
「どんこ船」と呼ばれる和船でゆく「お堀めぐり」は柳川の名物です。
このどんこ船の「どんこ」は、魚のどんこのこと。
ぷっくりとしたお腹を持ち、尾に向かってすっと細くなるどんこに
船の形状が似ていることからこの名前が付きました。
川下りの乗船場は西鉄柳川駅から歩いて5分ほどのところにあります。
私が乗ったのは内堀コースで、下百町乗船場と旧柳川藩主の別邸「御花」を
およそ60分かけて結ぶ乗合船です。
船上から見える風景は、バラエティに富んでいます。
例えば、内堀と外堀の分岐点に立つ通称「並倉」。
味噌蔵として明治時代に建てられたもので、
赤レンガ造りの3棟の蔵が外堀に面して立つ風景は、レトロな風情があります。
船の幅ぎりぎりの狭い水門を船を通ったり、
橋の下を潜ったり、アトラクションのよう!
水門抜けの際には、
船をぶつけず通り抜けた船頭さんを讃える拍手が、
誰からともなく起こりました。
知らない人同士ですが、どんこ船の上では一体感も生まれます。
約60分の内堀コースの途中には売店もあります!
船が近づくと売り子さんたちのにぎやかな呼び込みの声が。
乗船客たちもアイスクリームやビールなど思い思いの品を買い求めていました。
道中、船頭さんが柳川の歴史や見どころ、舟歌などを披露してくれます。
川下りを体験すると柳川のプロフィールが見えてくるので、
真っ先に体験してほしいスポットです。
さて、こんなのんびりした風景が広がる柳川を舞台にした
ホラー小説(!)があります。
恩田陸著『月の裏側』がそれです。
水郷の街・箭納倉で3件の老女失踪事件が相次いで発生。
しかし、その後3名ともひょっこり戻ってきます。
失踪時の記憶をなくして。
3名に共通するのは掘割のすぐそばに住んでいるということ。
それが何を意味しているのか...。
この箭納倉が柳川のことです。
『月の裏側』を読んでから柳川を歩くと静かに水をたたえた掘割が
また違ったものに見えてきます。
夕暮れ時、有明海が見たいと思い、海辺へ。
さんざん道に迷ってたどり着いた有明海は、静かに凪いでいました。
(取材・執筆 川崎 久子)