鹿の角と書いて「かづの」。
秋田県最北部に位置する鹿角市は、北は青森、東は岩手に接する県境の都市。八幡平へ分け入れば後生掛温泉や蒸ノ湯温泉など、名湯がこんこんと湧き、秋田の郷土料理「きりたんぽ」の発祥の地でもあります。
そんな鹿角の中心地をぶらぶら。花輪線花輪鹿角駅から歩いて10分ほどのところに、ひときわ目をひく町屋が立っていました。「関善賑わい屋敷」と呼ばれるその施設は、かつて関善酒店の主屋だった建物。桁行約24.8mある町屋の前面に「こもせ」と呼ばれる雪国特有のアーケード風の庇が設けられています。
なまこ壁の建物が関善酒店の現在の店舗(販売のみ)で、奥に見えるのが旧主屋
関善酒店は安政3(1856)年に創業し、鹿角最大の造り酒屋だったそう。明治38(1905)年に主屋が大火で消失し、この建物はその当時に建て替えられたものです。酒蔵としては昭和58年に廃業し、主屋の前を通る県道の拡幅工事のため解体の危機に晒されました。しかし、市民有志の尽力でこの巨大な商家をおよそ3.8m曳家し、難を逃れたのだそう。かつては「こもせ」の続く街並みでしたが、今はこの旧関善酒店と通りを挟んで向かい側に立つ小田島家(非公開)が往時の風情を留めています。
貴重な建物のなかを、ガイドの案内で見学しました。
からりと引き戸を開けると、そこには驚くほどの大空間が。通り土間の上部は高い吹き抜けの架構になっており、下から見上げると黒々とした太い柱と梁がジェンガのように重なり合っているのが見えます。木造の架構としては日本最大級の規模だそうで、この場所は店舗として使用されていました。
梁間は約21m、最高部は約10mあります。
小上がりに上がると、この下に作業に使用されていた空間があると、ガイドさんが教えてくれました。見れば、板の間の一部の材質が明らかに異なっているのが分かります。分厚い板を外すと地下室へ下りられるようになっていました。地下は一年を通して温度が一定のため、酒造りに適していたのだとか。
細く急な階段を上がると、2階は展示室になっていました。店舗で使用されていた道具から関家のプライベートの品まで、時代を感じさせるものが飾られています。この主屋は2階建てですが、一部が屋根の高さを生かしたロフトになっており、子ども部屋として使用されていたそう。ハシゴを上ってなかを覗くと屋根の傾斜がそのままの小ぢんまりとした部屋がありました。隠れ家風の造りが子どもの冒険心をくすぐりそう!
店舗奥の座敷。2階から座敷が見える造りになっています。天井が高くて開放的!
2階の展示スペース。商用・日用の道具が展示されています。
左)番傘のとなりにはハイカラなジャケットが。
気に入ったものを色違いで買ってしまうところに親近感!
中)箱入りの人形も、光の当たり具合でちょっと怖い。
右)2階から架構を望むと、いかに高いかが実感できます。
この旧関善酒店主屋の向かいには、約400年前から続くという「花輪朝市」の会場があります。毎月3と8のつく日に開催されるので、そちらを覗いてみるのもおすすめです。
主屋の近くには共同の水場「おせど(御伊勢堂)」があります。鹿角には清水が湧く場所がいくつかあり、「おせど」もその一つ。水質の良さからここに多くの酒造業者が水を汲みにきていたそう。