かつて仕事で広島に赴任していた父に「夕子が好きそうな所だぞ」と連れて行ってもらったのが初めての鞆の浦。まだ写真を生業にする前でしたが、フィルムカメラを手に細い路地を巡りながら、嬉々としてシャッターを切ったことを思い出します。
写欲を掻き立てる迷路のような小さな町と再びご縁ができたのは2013年。
その時の私は写真を生業として、この町のポスターを撮影するという大役を任されての再訪でした。
鞆町は広島県福山市にある港町。
「鞆の浦」とはそもそも鞆町の入江を表し、鞆港を囲む周辺エリアのこと。
このエリア一帯は国立公園に指定されており、昔からその美しい景色に多くの人が魅了されてきました。シンボルとなっている島は、仙人をも魅了するほど美しいという意味で「仙酔島」と名付けられています。
私が好きなのは、その入江の奥に小径が張り巡らされた情緒が漂う古い町並み。
この町は江戸時代に描かれた町絵図がそのまま現代にも通じ、街路もほとんど現存するというから本当に驚きです。
また坂本龍馬にも所以のある町としても知られていて、かの「いろは丸事件」をきっかけに鞆にたどり着いた坂本龍馬は、この町の商家「桝屋清右衛門宅」に身を隠し、数日間滞在したと言われています。今も坂本龍馬にちなんだ観光ツアーは人気で、この商家の屋根裏の隠し部屋などを見学することができます。
そもそも自称「裏路地マニア」の私がこの町に魅了されたのは、迷路のように張り巡らされた細い路地。「え、ここも通れるの?」とドキドキしながら石畳の路地を進めば、その先の三叉路にまたワクワクして。
ふと足元をみれば猫が伸びをしていたり、通学中の子供たちが「こんにちはー」と元気に挨拶をしてくれたり、漁から帰ってきた船乗りが家路に急ぐ生活路地であるところが何よりの魅力。観光客向けの商店があるかと思えば、普通の民家、軒先のサインポールも懐かしい床屋さんに、おばあちゃんが1人で営むお好み焼き屋さん。町の独特な生活の息遣いが感じられるのです。
この迷路のような路地を歩けば、必ずやこの町のファンになるはず。
島々が霞む瀬戸内海の朝焼け