1992年に世界文化遺産に登録されたカンボジアのアンコールの遺跡群。9世紀から15世紀にかけてインドシナ半島を支配したクメール人による都市遺跡で、トンレサップ湖北岸のシェムリアップに広がっています。なかでもアンコール・ワットやアンコール・トムがよく知られていますが、この世界遺産の範囲は400km²にも及び、他にも見応えのある遺跡が数多く残されています。
アンコール遺跡群のなかでも最大級のアンコール・ワット
その中のひとつに、ヒンドゥー教寺院の「バンテアイ・スレイ」があります。ここは、フランス人作家のアンドレ・マルローが、1924年に盗み出そうとした美しいデヴァター(女神像)があることで世界的に有名になりました。彼はプノンペンで逮捕されましたが、裁判の控訴審にて執行猶予となりフランスへ帰国。この時の体験から小説『王道』を描きました。盗まれずに済んだデヴァターは、現在も祠堂の壁面を飾っています。その表情に、気品ある柔和な笑みを浮かべていることから「東洋のモナリザ」とも呼ばれています。
デヴァターの彫刻が施されたバンテアイ・スレイ
微笑を浮かべたデヴァター
クメール語でバンテアイが砦、スレイが女を表し、「女の砦」を意味するバンテアイ・スレイは、10世紀後半に完成しました。12世紀に造営されたアンコール・ワットやトムより古い時代のものです。
環濠に囲まれたバンテアイ・スレイ
東門から入ると参道が真っ直ぐに伸び、中央にある寺院へと誘います。堀を巡らせてあるので、寺院はまるで水に浮いたかのよう。赤みを帯びた建物は、赤い砂岩やラテライトで建造されたためで、黒っぽい印象のアンコール・ワットやトムと雰囲気が異なります。規模も小さいですが、デヴァターはじめ、ヒンドゥー神話の世界を描いた緻密で美しい彫刻が建物の全面に施されることから「アンコール美術の至宝」とも称えられているそうです。
ヴィシュヌ神の妻ラクシュミーのレリーフ。ヒンドゥー神話の彫刻で埋め尽くされています
シェムリアップ市内から車で約1時間と郊外にあるので、見学の際はツアーに参加するか、車をチャーターするか計画的に。ただし遺跡を保護するため、「東洋のモナリザ」は間近に見ることができません。双眼鏡や望遠レンズ付きのカメラがあるとよいかもしれません。