世界のファインダイニング by 江藤詩文

第5回 料理が語る日本への思い「est(エスト)」(東京・大手町)

(est(エスト)のeはエモーション、sはシーズン、tはテロワールの頭文字。
メニューの1ページめにはギヨームさんのメッセージが綴られています)

ファインダイニングの楽しみ方は、おいしい料理をお腹いっぱい食べるだけじゃない。絵画や音楽と同じように、料理に込められたメッセージを読み解くことにある。それを再認識させてくれたのが、「est(エスト)」のフランス人シェフ、ギヨーム・ブラカヴァルさんです。


(ギヨーム・ブラカヴァルさん。
トロワグロ時代を共にしたイタリア人のペストリーシェフ、
ミケーレ・アッバテマルコさんと再びチームを組んでいます)

9月にオープンした「フォーシーズンズホテル東京大手町」。4つある料飲施設のフレンチダイニングがest。そのシェフに抜擢されたギヨームさんを、レストラン好きならご存じかもしれません。2019年末に閉店した「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」で腕を振るい、二ツ星をもたらしました。

(「カボチャ キャビア」。
2種類のカボチャをブレンドしたピューレを包むのは、
パスタ生地ではなく大根。クリームやバターは極力使わず仕上げています)

そんなギヨームさんが託されたest。トロワグロ時代は、代々伝わるシグネチャーメニューを継承して東京で再現するなど、レシピはすべてフランスの本店と共有していたそう。ところがこちらでは、まったく新しいレシピを考案したとか。テーマに選んだのは「日本の風土」です。

「肉も魚も野菜も調味料も、日本の生産者はほんとうに素晴らしいものを作り出す。これらを料理できる日本の料理人は幸せです。日本の季節の移ろいや風土を料理で表現したい。(コロナ禍でも)フランスに帰ろうとは思いませんでした」


(シグネチャーメニューのひとつ「豆腐チーズ シトラス」。
自家製の濃厚な豆腐クリームに日本の柑橘類をプラス。
フロマージュブランのような味わい)アイキャッチ

フレンチを構成するのにどうしても必要なものを除いて、日本の食材の使用率は85〜90%。全国各地の生産者を、自ら訪ねて選び抜きました。

「食材だけでなく、日本で学んだ調理技術も応用して取り入れています」

(出汁のうま味を際立たせた「キンキ 出汁」。
鱗をパリッと焼き上げる調理法は日本料理から学んだもの。
日本の影響を強く感じるひと皿です)

考えてみると、国産食材をフィーチャーした日本人シェフによるフレンチは数多くあるけれど、外国人シェフでここまで日本の食への造形が深い方は希少かも。私がお会いした方では、他に「ブルガリ イル・リストランテ」のルカさんくらい?

(世界各国の銘柄が揃ったワインリストのトップを飾るのは日本のワイン。
ミネラルウォーター(スティルも泡も)も国産のものが並びます)

来日して8年。全国の生産者とコミュニケーションするために日本語を習得し、今では流暢に使いこなすギヨームさん。「日本料理を食べたように、軽やかな食後感」のコンテンポラリーフレンチは、日本が誇らしくなる幸せな味わいでした。

「est(エスト)」

https://www.fourseasons.com/jp/otemachi/dining/restaurants/est/

公式ウェブサイトからオンライン予約できます。

 

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