「旅恋どっとこむ」に特別参加させていただきますライターの田喜知です。先日、台湾の宜蘭(イーラン)県に行ってきました。はじめて訪れた宜蘭県には、マイナスイオンたっぷりの森林地帯をはじめ、イルカ&クジラウォッチングを楽しめる海岸エリア、独特の伝統グルメなど数多くの興味深い点がありました。今回は、Vol.2に続く亀山島(グイシャンダオ)紹介の後編として、火山島ならではのビューポイントを中心にレポートします。
●火山が生んだ霊島「亀山島」
台湾北東部・宜蘭県頭城(トウチェン)の東方約10kmの沖合にある亀山島は、面積2.8㎢ほどの無人島。その名は、大小の起伏と長い砂嘴が連なった独特の地形が、カメの頭、甲羅、尾をかたどったような輪郭線を描いていることに由来します。このウミガメを連想させる神秘的な姿は、約7000年前の海底噴火により誕生し、遠い祖先の時代から地元の人々に霊島として崇められてきました。また、この島は、今もなお躍動し続ける火山島。断崖絶壁が迫る猛々しい姿を目にし、島の存在感を誇示するような火山現象の数々に触れれば、霊島たる所以を実感できることでしょう。
<火山島の息吹を体感できる亀山島クルーズ>
頭城のシーサイド観光の目玉、ドルフィン・ホエールウォッチング(詳細はVol.2参照)。このツアーの楽しみは、イルカやクジラの観賞に尽きず、それとあわせて行う亀山島観光にもあります。島観光には、島内散策やカメの背を登るトレッキングなど数プランがありますが、おすすめは約10kmある島の外周を船で一周するコース。数ある島のビューポイントを効率よく見学でき、火山島ならではの魅力を最も堪能できる内容です。料金はイルカなどの観賞を含めて1200元(約4500円、救命胴衣レンタル・保険込み)、所要2〜3時間が目安です。
ツアーの起点は、頭城市街から約2kmの場所にある烏石港(ウーシーガン)。
島観光へはクルーザーで。船の大きさは催行業者によるが、46〜94人乗り
紺碧の黒潮の海に忽然と浮かぶ島は、霊島の趣たっぷり。
航行中は、巨大なウミガメに突進していくような気分に浸れ、高揚感満点!
カメの頭を東へ向け、長い尾を西に伸ばすように浮かぶ亀山島。島の外周をめぐるコースでは、船はまず、島の東端にあるカメの頭を目指します。ここで見学できるのは、海水の浸食作用でむき出しになった火山岩の断層「亀岩巉壁(グイイエンチャンビー)」。黒褐色や濃褐色の荒涼とした地層には火山噴火の痕跡があらわれ、視界を塞ぐようにそそり立つ高さ239mの絶壁は、身がすくむような迫力です。
東に頭カメの頭「亀岩巉壁」を向ける亀山島。軍が島を占拠していた時代には銃砲区となっていた
このほかにも、カメの頭の周辺には創世時の面影を残すスポットが集中しています。ことに海底温泉は火山島のエネルギーを強く感じられる場所。海面下1300〜2000mの地点から大量の硫黄泉が湧出し、あたりの海水をオパールブルーの淡い色に染めています。藍を流したような群青の海に光を放ったような明るいブルー、2色の織りなすコントラスは目が覚めるような鮮やかさです。
さらに興味深いのは、この温泉の付近に「烏亀怪方蟹(ウーグイグアイファンシエ)」というカニが生息していること。湧出口付近は水温が65〜116度、しかも硫化水素を豊富に含んだ強酸性の水質で、カニどころか、微生物の存在すら疑わしい環境です。そんな過酷な状況下で繁殖するこのカニは、「煮ても火が通らない」などといわれ、2000年には新種に認定されています。実際は、熱水が湧き出す岩礁の割れ目を避けて水温20〜30度の浅瀬に生息しているそうですが、一歩踏み外せば本当に茹だってしまうはず。まさに、崖っぷちの人(カニ)生を送っているのです。
濃淡の青色が美しい海底温泉周辺の海。
付近に生息する烏亀怪方蟹は、
サワガニほどのサイズ
(イメージ:蘭陽博物館にてレプリカを撮影)
また、このあたりは硫黄泉の噴出量が特に多く、船で近づくと、ほのかに硫黄臭が漂ってきます。かつては、しばしば大きな海底噴火があり、その際には空高く噴煙が上がっていたといいます。
一方、見どころは島の西端にも。約1kmに渡って白い砂嘴を伸ばす「亀卵石(グイルアンシー)ビーチ」は亀の尾に例えられ、季節風や潮の満ち引きの影響により北へ、南へと位置を移動させるそう。その様子が、ちょうどカメが尾を振っているように見えるというからユニークです。
地元では、これらの現象をそれぞれ「亀島磺煙(グイダオフアンイエン)」「霊亀擺尾(リングイバイウェイ、「擺」=揺れる、振るの意)」と表現します。これらは現在、海底温泉とともに亀山島八景に数えられ、観光客の目を楽しませていますが、その昔、この光景を見た人々は「カメが息を吐いた」「尾を振った」と言っておののいたそう。そして、これらのできごとが神(=カメ)のふるまいだと信じ、亀山島を「宜蘭県の守護神」と崇めるようになったのです。
島が生きているように、砂嘴が左右に移動する。尾の根元には、
亀尾湖や上陸者のための船の発着所もある
(左写真撮影:李錕鐘)
<漁村や軍事管制区の時代を経て、観光名所へ>
今は無人島になっている亀山島ですが、1853年には移住者が集落を作り、最盛期の1970年頃には700人前後の人が暮らしていました。当時は、漁民たちの拠点となったり、島の雲のかかり具合から天候を予測したりしていたため、この島は漁業や農業を生業にする人々にとって欠かせない存在だったといいます。
また、一説によると、島の南部にある海蝕洞「眼鏡洞鐘乳石奇觀(イエンジンドンヂョンルーシーチーグアン)」は、外国人漁師との密輸取引の場だったそう。カメの右脇腹付近にあるこの鍾乳洞は、眼鏡のレンズのように2つの洞が隣接したもの。ツアーでは洞窟の中までは入らないものの、外から見る限り入口が狭く、人目を忍ぶには確かに都合がよさそうです。往時に思いを馳せ、ミステリアスな気分に浸れることでしょう。
眼鏡洞鐘乳石奇觀のなかには、石筍や石柱などの鍾乳石があるという
やがて、1977年に島が国の軍事演習場に指定されると、すべての島民は離島を余儀なくされました。軍が撤退し、現在のように再び一般開放されたのは2000年のこと。今も軍の管制区であるため入島には事前申請が必要で、1日の入島人数にも制限がありますが、島内観光が可能となっています(外国人は当日、パスポートの提示も必要)。
残念ながら、今回、私は上陸できませんでしたが、島内では当時の島民たちの暮らしぶりを垣間見られます。彼らの信仰の名残や史跡、全長800mの軍事坑道など数々の名所を見学できるほか、カメの背の頂点にある展望台までのトレッキング(1日40人まで)では、海抜401mの高さから太平洋の大パノラマを一望することも可能です。また、島は、昆虫から鳥類まで100種類以上の生物が生息し、ガジュマルほか、約350種もの植物も自生する自然の宝庫。清々しい空気と、野趣に富んだひとときを満喫できることでしょう。
<伝統文化から自然まで、宜蘭県の特色を幅広く紹介>
亀山島観光とあわせて足を運びたいのが、烏石港から徒歩で10分足らずの場所にある蘭陽博物館(ランヤンボーウーグアン)。宜蘭県の特色をさまざまな角度から紹介しており、生態環境をはじめ、歴史や伝統文化、先住民族の噶瑪蘭(クバラン)族に関することまで幅広く知ることができます。館内は4フロアに分かれ、1階では特別展示、2階より上層階ではフロアごとに宜蘭県の海、平原、山をテーマにした展示を行っています。そして、2階には亀山島についての解説も。日本語の音声ガイドの貸し出し(100元=約380円)もあり、宜蘭県を旅するなら、入門編としてぜひ訪れたいスポットです。
蘭陽平原の海岸線に面して建つスタイリッシュな博物館。雰囲気のいいカフェも併設
約140万点の遺跡出土品や7000点以上の骨董芸術などを所蔵。
レプリカを多用した解説で、宜蘭県をわかりやすく紹介
*****************
<最後に......>
小さな島を意味する「嶼」の字をあて、亀山嶼(グイシャンユィ)とも呼ばれる亀山島。総面積2.8㎢ほどの小さな島ながら、同県の象徴と謳われ、眺望、歴史、周辺レジャーと、さまざまな楽しみ方ができるのが魅力です。そして何より、これらの源となっている島の雄大な自然が、訪れる者の心を惹きつけます。神が宿る島、亀山島へ、その秘めたる神秘を体感しに出かけてみませんか?
●Information
<台北から烏石港へのアクセス>
・バス
MRT圓山駅から國光客運バスの1877番・烏石港(頭城)行きで約1時間20分、烏石港(烏石港旅客中心)下車。120元、1時間に1〜2本
・電車
台鉄台北駅から自強号の花蓮または台東行きなどで約1時間〜1時間30分、頭城駅下車(184元、30分〜2時間30分に1本)。國光客運バスの1766番烏石港行きに乗り換え約9分、終点下車。23元、1時間に1〜2本(台鉄頭城駅からバス停「頭城」へは徒歩約5分)
<宜蘭亀山島賞鯨旅客服務中心>
http://www.lianwhale.com.tw/index.php
<中華鯨豚協會(中華クジラ・イルカ協会)>
http://www.whalewatching.org.tw/
<蘭陽博物館>
烏石港(ドルフィン・ホエールウオッチング出航場所)から徒歩約8分
<宜蘭県政府「宜蘭軽旅行」>
http://event.suntravel.com.tw/201505_yilan
<チャイナ
エアライン>
http://www.china-airlines.com/jp
(取材・執筆/田喜知 久美、写真協力/林明仁、李錕鐘)