世界のファインダイニング by 江藤詩文

第64回 We Love to Share ! 分かち合う文化は国境を超えて! ここはガストロノミーの永世中立国だ「IGNIV Zurich」(スイス・チューリヒ)

▲小さな前菜はシグネチャーディッシュのIGNIVエッグ、白身魚(地元の食材)、
ビーフ(海のものと山のもの)、ポン酢(異文化のもの)などスイスらしい懐の深さ

え、スイスってこんなに親日でしたっけ? 3年ぶりに訪れてみたら驚くことばかりだった今回の旅。なかでもフードシーンにおいてシェアスタイルが人気を得ていたのは、意外でもあり嬉しい発見でした。

▲Marktgasse Hotel内にあるIGNIV Zurichのメインダイニング © Andy Davies

ファインダイニングシーンに“セルフ取り分け”スタイルを持ち込んだブランドがIGNIV(イグニブ)。チューリヒ郊外の小さな村 Fürstenau(フュルステナウ) で Schloss Schauenstein(シュロス シャウエンスタイン/ミシュランガイド スイス 2024 三つ星+グリーンスター、The World’s 50 Best Restaurants 2024 46位)を営むスイスのトップシェフ Andreas Caminada(アンドレアス カミナダ)さんが統括するグループで、スイスのチューリヒ、バート・ラガッツ、アンデルマットの三都市と、国外ではタイ・バンコクに展開しています。

▲「IGNIV ART COLLECTION」と題して各店舗がそれぞれアートを飾っています。
右上はシェフのDanielさん。
チューリヒ店はアルコールにも力を入れていてオリジナルワインのほかカクテルも多数

私が行ったのはチューリヒ店。それぞれ個性的なシェフとサービスのふたりが各店舗のカラーをつくっていて、チューリヒ店はあっという間に二つ星に輝いたDanielさんと、パートナーでソムリエールのInesさんが、テンポよくリズミカルにおもてなしをしてくれます。

▲IGNIV全店舗に設置されている「キャンディストア」。
プチフール代わりに好みのものをボックスに詰め合わせてくれます

小さな前菜・スターター・メイン・デザートの4皿とメニュー上には記載されているけれど、実際には小さな前菜が4品、スターターが4品+3品、メインが4品、デザートがプレ1品+5品と21皿ほどが6回に分けて提供されます。人数分の料理をひと皿に盛り合わせて一度にサーブして、ゲストが取り分けるのがこの店のスタイル。

▲料理は細部まで手数をかけてしっかりと作り込まれています。
シェアスタイルのため料理が冷めないようにホットストーンを敷くなどの工夫も

ふだん取り分ける経験の少ない彼らの楽しそう(でけっこう下手)なことといったらもう、見ているこちらまで笑いが伝染してしまう。個人が尊重され、各自が意思を持って自分で選択した料理を食べる。それもすばらしいことだけれど、同じ料理を取り分けてあれこれ感想を言い合うという選択肢が増えたなら、それは食文化の喜びが拡大することに繋がります。

▲金継ぎしたテーブルウェアも何度か登場。スイスでも金継ぎは広く知られているそうです

この連載でみなさんすっかりおなじみ Florilege(https://www.tabikoi.com/eto1/) の川手寛康さんなど、アジアのシェフとも親交があるカミナダさん。アジアでの体験が幸せなものだったからシェアスタイルを始めたのかな、なんて想像が止まらなくなりました(本人に確認してないので知らんけど。たぶんきっとそう)

IGNIV https://igniv.com

*公式サイトから予約できます(英語・ドイツ語)
*記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます。

取材協力 スイス政府観光局  https://www.myswitzerland.com/ja/

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