カンボジアには2つの世界遺産があります。先月、そのうちの一つ、アンコール・ワットやアンコール・トムで知られる「アンコール」を訪ねました。今回から数回に分けてアンコールの遺跡群をご紹介します。
ちなみに、もう一つの世界遺産は、ヒンドゥー教の「プレア・ビヒア寺院」です。今回訪れることはできませんでしたが、先月、ニュースで話題となっていました。この寺院遺跡はカンボジアとタイの国境付近にあり、両国の間で紛争の種になっています。11月11日、オランダ・ハーグの国際司法裁判所で、プレア・ビヒア寺院の周辺一帯はカンボジア領であるという判断が下されました。ただし、国境線については両国が平和的に画定するようにと判断を避けたので、この紛争解決にはまだまだ時間がかかりそうです。
では、しばしアンコール遺跡めぐりにお付き合いください。まずはアンコール最大の遺跡規模を誇るアンコール・ワットです。
◆アンコール・ワット
アンコール朝の栄華を伝える
東南アジア最大級の石造伽藍
世界各国からの観光客で賑わう
クメール語でアンコールは「都」、ワットは「寺院」を意味します。
12世紀前半、アンコール朝のスールヤヴァルマン2世によって30年以上の年月をかけて建造されました。総面積200ha、東西約1.5km、南北約1.3kmの壮大な寺院遺跡に、当時の王の権力の大きさが伺われます。
遺跡はクメール人が信仰したヒンドゥー教の宇宙観を表し、中央には、神々が棲む、世界の中心と考えられていた須弥山を模した中央祠堂がそびえます。高さは65mあり、周囲には4つの尖塔が配置されています。
その本殿を囲んでいるのが三重の回廊です。
一番外側にあるのが第一回廊で、壁面を埋め尽くすレリーフ(浮き彫り)が見どころです。
全長760m、高さ約8mの壁面は上中下と3段に分かれ、
上部には遠景、中央部には中景、下部には近景が描かれている
西面南側にはインドの叙事詩『マハーバーラタ』、西面北側にはインドの叙事詩『ラーマーヤナ』、東面南側には天地創世の神話・乳海攪拌など、神々や英雄たちが登場し、壁面に沿って歩いていくに従い物語が進行していきます。生き生きと描かれる人々の表情、ゾウやサル、シカ、ライオンなど動物たちと緻密なレリーフに感嘆のため息が洩れます。
レリーフが黒光りしているのは多くの観光客が触れてしまったから。現在、触れることは禁止されている
第一回廊から十字回廊を抜けると第二回廊があります。東西115m、南北100mの回廊で、ここの壁面では"デヴァター"という女神像の浮き彫りがたくさん見られます。
美しく妖艶な容姿でそれぞれ異なっている
第三回廊へは傾斜のある階段を上っていきます。観光客が多いので、階段へは長い行列が出来ていました。中心部には中央祠堂、回廊の四隅には4基の尖塔がそびえています。
高さ65mの中央祠堂はアンコール・ワットのシンボル
第三回廊でも見事なデヴァターが見られる
第三回廊からは眺めも楽しめる。現在でも辺り一面ジャングルといった様相で、
15世紀以降アンコール朝が衰退した後、1860年にフランス人博物学者アンリ・ムオに
"発見"されるまで歴史の表舞台から忘れ去られていたのも納得
■カンボジア・1992年登録・文化遺産
■アンコール
(Angkor)
(文・山本 厚子)