トコトコ東北 by 川崎久子

第29回 長〜く使えるいいものを手に入れる!岩手の漆の里へ(岩手県・二戸市)

岩手県二戸市浄法寺は、漆や漆器の産地。縄文時代の遺跡からも漆鉢(土器)が見つかっており、藩政時代には盛岡藩の重要な産業の一つになっています。

漆器には、「漆を掻く(採る)」「木地をつくる」「漆を塗る」という作業工程があり、各工程にそれぞれ職人がおり、多くの職人を介して一つの漆器ができあがります。岩手県の安比川流域は、これらの工程を一貫して行える全国的にみても珍しい地域であることから、二戸市と八幡平市が共同申請し、令和2年度に「“奥南部漆物語~安比川流域に受け継がれる伝統技術~」というストーリーで日本遺産に認定されました。

さらに二戸市では、市内在住の子どもが満5歳の誕生日を迎えるまで国産漆のお椀とおさじを貸与するサービスが! 離乳食を漆器でいただく……、幼い頃から地域の伝統工芸品に触れられるステキな施策もあります。

この二戸市の浄法寺地域とその周辺は、国産漆シェアのおよそ75%を占めているのだとか。漆の木から漆を収穫できるようになるまでには1525年ほどかかるのですが、「浄法寺うるし林」では丹精して育てられた漆の林を見ることができます。また、浄法寺漆のショールーム兼工房「滴生舎(てきせいしゃ)」では、浄法寺漆の魅力に触れることができます。

整然と漆器が並ぶ「滴生舎」のショールーム内。

ショールームの一角に、表面に無数の直線が引かれた漆の木が飾られています。これは漆を採る“漆掻き”作業に実際に使われていたもの。

写真上が、漆掻き作業をした漆の木で、表面に無数の線が入っています。
1回から6回まで塗って磨いてをくり返したお椀の展示もありました。

漆を採るには、樹皮をはいでからカンナで傷をつけ、染み出した漆の樹液をヘラでかき取るのだそう。メイプルシロップのように木に穴を開けて筒を差し込みバケツに樹液をバケツに溜める風景を想像していたのですが(『大きな森の小さな家』で読んだ記憶が…)、驚くほど手間暇がかかっています。しかも、1本の木から掻き取れる漆は200ccほどとわずか。漆の貴重さをしみじみ感じます。

お椀だけでなく、こんなモダンな形の漆器もあります。

漆を塗っては磨くという作業をくり返して作られる漆器は美しく、そして丈夫。お正月などハレの日に使うイメージですが、丈夫な漆器だからこそ、毎日の生活に積極的に取り入れたいものです。

Tag

このページをSHAREする

最新記事一覧へ