盛岡の春の風物詩は、盛岡地方裁判所前の石割桜。巨大な花崗岩の割れ目からむくむくと枝を伸ばす姿は、なんとも逞しく、東北人の魂を感じるような桜です。樹齢360年以上とされるエドヒガンで、見頃は4月中旬です。
裁判所の隣の隣にある、歴史ある建物が岩手県公会堂、今回の主役です。公会堂建設が発議されたのは、大正デモクラシーのただなか。大正12年(1923)、当時皇太子だった昭和天皇のご成婚を記念する事業の一環として、人々が集う場が求められたのです。
昭和2年(1927)竣工、県会議事堂、大ホール、西洋料理店、皇族・貴族の宿泊所の4つの機能を備えていました。西洋料理店は「公会堂多賀」という名で、パリのリッツホテルで修業した料理人が腕を振るい、盛岡出身の国際人・新渡戸稲造もお気に入りだったそうです。ハヤシライスが人気で、2017年まで営業していました。
設計は日比谷公会堂などを手掛けた早稲田大学教授の佐藤功一博士。外装はスクラッチタイル張りで、塔屋が際立つネオゴシック様式。そして随所にアール・デコも垣間見え、たしかに日比谷公会堂とよく似ています。壁面にはテラコッタと呼ばれる装飾があり、それぞれに趣があります。
戦後は、進駐軍の病院として接収された時期もあったのですが、その後は県民にとっての文化の殿堂として広く活用されました。建物の老朽化や利用率低下などから解体の話が持ち上がりますが、保存が決定、国の有形登録文化財に指定されています。
私が訪ねたとき、耳を澄ますと大正琴の音が聞こえてきました。文化活動の場として今も市民に親しまれているようです。
ところで盛岡には、重要文化財の岩手銀行旧本店(旧盛岡銀行本店)、もりおか啄木・賢治青春館(旧第九十銀行本店)など見どころの多い近代建築があります。じつは盛岡本命はこちらだったのですが、訪ねた日が火曜日、いずれも休館日だったのです……残念。盛岡散策はぜひ火曜日を避けていただければと、思います。
左:岩手銀行旧本店 右:もりおか啄木・賢治青春館