世界のファインダイニング by 江藤詩文

第52回 レストランを営むこと。それは街の歴史と文化を育むこと「Duomo ドゥオモ」(イタリア・シチリア)

「シチリアのタコを食べずには死ねませんよ」と、このコラムでもおなじみのあるシェフ。

「その人ほんとうに日本人? シチリア人のソウルを持っているよ」。

Duomo ドゥオモ オーナーシェフのCiccio Sultano チッチョ スルターノさん(←ちなみに親日家)は豪快に笑うとこう言いました。「まかせて。今日のディナーは世界一シーフードにうるさい日本人も満足するタコ料理ですよ」

          ▲シチリアの郷土料理をモダンに再構築したアミューズ

シチリア南部に位置する世界遺産の町ラグーサ・イブラ。バロック様式の建築が美しい小さな町が誇るのが、ミシュランガイドで二つ星に輝く「ドゥオモ」です。海に囲まれて気候もよく、魚介類やワイン、オリーブオイル、野菜やフルーツなど豊かな食材に恵まれている分、料理はシンプルだったシチリアで、チッチョさんはシチリアの食材を主役に現代的なアプローチを加え、シチリア料理を世界レベルに押し上げた先駆者として敬愛されています。

▲右がチッチョ・スルターノさん。町を歩くとあちこちで声がかかるスターシェフ

私が訪れた初夏はタコが旬で魚介類のバリエーションも豊富ないい季節。ここで生まれ育ったチッチョさんは、子どもの頃は素潜りでタコを銛で突き、生のまま塩胡椒とシチリア名物のレモンやオリーブオイルをかけておやつ代わりに食べていたとか。

「ドゥオモ」では日本料理のしゃぶしゃぶにヒントを得て80℃のお湯で3分だけ加熱。ギリギリ火が通ったくらいのふっくらしたタコを、レモンが香るクリーミーなソースに合わせていました。

     ▲自家製のパンにオリーブオイル、タコとソースを乗せても美味

この町ではじめてのミシュラン二つ星シェフとして、近い将来は三つ星も期待されていたチッチョさん。地元の生産者との縁にも恵まれのびのびと料理人ライフを楽しんでいましたが、こののどかな旧市街にもコロナ禍は重くのしかかってきたそう。

 ▲マグロやスカンピといったシーフードのほかマイクロハーブも地元のもの

「飲食店の営業を禁じられましたが、私が買い支えなければ地域の産業が成り立たなくなってしまう。責任を感じると共に今こそミシュランガイドやガンベロロッソから与えられた知名度を有効活用すべき時だと決断しました」

          ▲シチリアの海を思わせるブルーに彩られたダイニング

「町の人たちがレストランを単なる胃袋を満たす場や社交場と捉えず、食文化の集大成と理解してリスペクトしてくれている。だからこそチッチョブランドの加工品や保存食をつくるなど、地域のコミュニティと共に危機を乗り切ることができました」とチッチョさん。

次回はそんなチッチョさんが手がける町のコミュニティスペースをご紹介します。

Duomo ドゥオモ
https://www.cicciosultano.it

*公式サイトから予約できます
*記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます

Tag

このページをSHAREする

最新記事一覧へ