今まではカヤックについての基本的な知識についてお話しましたが、これからは実践(?)編として、カヤックを漕ぐオススメフィールドについてお話していきます。
第一回目は絶対にはずせない場所、神奈川県の三浦半島。私が初めてシーカヤックを漕いだ場所でもあり、現在もカヤック仲間と一番よく漕ぐフィールドです。三浦半島は、鎌倉時代、一帯を治めた三浦一族ゆかりの地でもあり、キャベツや三浦ダイコンなどの畑と、荒々しい海岸美が広がるエリアです。さらに、南仏・プロヴァンス地方を思わせる、家族連れに人気の高い広大な「長井海の手公園 ソレイユの丘」もあります。
品川駅から三浦半島の玄関口である三崎口駅までは京浜急行で約1時間。自艇を持っていなくても気軽に漕げるようにと、三浦半島や葉山には艇をレンタルできるカヤックショップがいくつか点在しています。
また、三浦半島の海岸沿いは剣崎から千畳敷、和田長浜から荒崎、城ヶ島などの岩礁地帯を歩けるようにもなっています。ただし、複雑に入り組んだ入り江や小さな磯場などへも海側からどんどん入っていけるのはシーカヤックならでは。海が穏やかであれば、漕ぐ手を少し休めて空を見上げたり、海面を滑るように走るヨットの白い帆を眺めたり、堤防で釣りを楽しむ人々に挨拶したりもできます。
以下、三浦半島のいくつかのカヤックポイントをご紹介します。
<小網代湾>
住宅や別荘に囲まれながらも、干潟と湿原、鬱蒼とした森林がしっかりと守られている「小網代の森」。春には野生の藤の花、秋には燃えるような紅葉をカヤックに乗ったまま楽しめます。「小網代の森」へは小網代のマリーナを抜けて向かいます。波がほとんどない湾にヨットやクルーザーが幾艘も浮かんでいます。カヤックを漕ぎながら、小網代のマリーナを抜ける静かな時間が、私は一番好きかもしれません。
<荒崎・どんどんびき>
荒波や風などにより浸食された岩場が続く「荒崎海岸」。荒崎公園の近くは舗装された遊歩道があるのでハイカーも多い場所です。近くには幅約3m、奥行き約20mの切り込んだ断崖に囲まれた「どんどんびき」があります。ハイカーは見下ろすことしかできませんが、満潮時ならカヤッカーは細い水路を抜けて小さな砂地に上陸することができます。ここは海側からしか行けないスポット。遊歩道しか歩けないハイカーを横目に、水の上を自由に進めるカヤックを誇りに思う瞬間が訪れる場所です(笑)
← カヤッカー目線の「どんどんびき」。断崖が迫ってくるような迫力
↓ウミウ展望台からの眺め
三浦半島の最南端にある小さな島「城ヶ島」。切り立った断崖、緑豊かな公園、ウミウの生息地など、 北原白秋の詩に詠まれた景勝地です。陸から海沿いに歩いて行ける「馬の背洞門」は、高さ3 m、幅2mの海蝕洞窟です。海上からも、穴がぽっかりと開いたようなその偉容な姿をはっきり確認できます。橋脚から海面 までの高さが約22mの城ヶ島大橋。下から橋を見上げると、その大きさに圧倒されます。橋 の下を通れるのもカヤックならではです。但し、城ヶ島を漕ぐ際は、風が直接当たる外海を漕ぐことになります。城ヶ島(特に安房崎近辺)をカヤックで一周する際は風の向きや海況に注意することが大切です。ムリは厳禁です。
「海なんてそれほど景色が変わらないから面白くないんじゃない?」「いつも同じ場所で漕ぐのはつまらなくない?」と言う方もいますが、そんなことはありません。季節によって景色が違うのは当たり前ですが、海況、風の向き、天気によって海は様々な表情を見せてくれます。特に春先や晩秋の海の美しさには漕ぐ度に驚かされます。海をのぞき込むと、吸い込まれそうなほど透明度が高いのです。時折、頭上で鳥が鳴いたり、ダツ(トビウオ)が距離にして10〜20mほどでしょうか?海面すれすれを跳ぶ姿を見ることもあります。上陸して砂や芝の上に横たわって海風にあたり、心地よい疲労感に身をゆだねる休憩タイムも極上のひとときです。普段、自然環境から離れた生活をしているからこそ、カヤックを漕いでいると、より一層、自然と向き合う気持ちが豊かになる。だから私はカヤックを漕いでいるのかもしれません。
(執筆 塩見有紀子)