琴の演奏を通じて、新しい時代にコミットするイノベイティブな活動を行っている琴奏者の明日佳さんにフォーカス。後編は琴自体の魅力に迫ります。前編はこちら。
今回お話を伺うために、ご実家の地下に設けられているスタジオを訪れたのですが、ここにズラリと並んだ琴は一般的に六尺(182㎝)の高さを持ちます。吸水率や透水性、熱伝導率が低いことから音響がよいため、全て桐(キリ)の木を使用。また、天然の木ならではの美しい模様も桐を用いる理由のひとつでもあります。琴は龍をモチーフにした楽器とも言われ、その模様は龍の鱗にも例えられます。それぞれ異なる琴の甲の模様を間近で見ると、実に優雅で艶やか。その模様の美しさで、なかには1000万円を超える高価なものもあるそうです。
木目模様の美しさにうっとりする
桐の木目を生かした琴。それらは職人の手でひとつひとつ作られるため、細部に渡って細かい技が施されています。「くり甲」と呼ばれ、表の「甲」と裏板の繋ぎ目がないものは、職人の技が光る最高クラスの琴。一番驚いたのは、その「甲」の裏側に音響を良くするために綾杉紋様が彫られていること。
「裏側に彫られる模様は職人さんが最もこだわる部分で、普段は持ち主以外、人の目に触れぬところだからこそ、それぞれの個性が感じられる」と明日佳さんが嬉しそうに話してくれました。確かにこんな部分に細工が施されているとは知られていませんね。
甲の裏の綾杉模様は職人のこだわり
龍をモチーフにした琴は部位の名称にも「龍」を用いており、例えば「龍頭」と呼ばれる演奏する頭の部分の断面は「龍舌」と呼ばれ、普段は「口前」と呼ばれるカバーで保護されていて、演奏の際にはこれを外します。他にも立てた時に下になる部分を「龍尾」、そしてボディの表面を「龍甲」と呼びます。とても神秘的な楽器であることがうかがえます。
龍頭のカバー(口前)を外すとその断面が龍舌
また、琴は桐で作られた甲以外の部位にはさまざまな素材が使用されていますが、昔は象牙を使うことも多かったといいます。なかでもよく使われるの琴の弦を支えて音を調節する琴柱(ことじ)は、時代と共にプラスチック製にシフトしているそうですが、明日佳さんはサスティナブルな素材として、竹を使った琴柱を試作中なのだとか。音への影響も考えつつ、環境への配慮に目を付けるところも、伝統芸能の世界では新しい視点なのかもしれません。
琴柱の素材は象牙やアクリル などさまざま。真ん中が試作中の竹の琴柱(左写真)
生まれも育ちも東京だという明日佳さん。現在は、自然が豊かで静かな群馬県と東京を行き来する二拠点生活を送っています。賑やかな東京も好きだけれど、日頃の喧騒から離れて温泉に浸かるのも好きだとか。そして今後は音楽の世界だけでなく、様々な分野とコラボしながら世界中を旅していきたいと話してくれました。
※この記事では敢えて「琴」表示とさせていただいております。
ASUKA(明日佳)/琴奏者・作曲家・編曲家
WEB: https://asukakoto.com
Instagram:https://www.instagram.com/asuka_koto/