前回ご紹介したルイ・キャーンズが1987年より続くモナコ美食界の帝王ならば、2022年4月に産声を上げたPavyllon Monte-Carlo, un restaurant de Yannick Alléno パヴィヨン モンテ・カルロ アン・レストラン・ドゥ・ヤニック・アレノ（以下、パヴィヨン）は、モナコのガストロノミー界に吹き込んだ新しい風。
（割ると中からキャビアが溢れ出す半熟卵はヤニック・アレノのシグネチャー。
こちらでも提供しています）
そんな軽やかで今どき感溢れるダイニングを手がけるのは、フランスで唯一ふたつの三つ星レストランを持つ現代フランス料理の巨匠、ヤニック・アレノ。2019年春に来日してその技術を日本のファンのために惜しげもなく披露したのを、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。パヴィヨンがあるのは、ルイ・キャーンズから徒歩3分のHôtel Hermitage Monte-Carlo ホテル・エルミタージュ モンテ・カルロ。オープンを祝うガラディナーには、アラン・デュカスとヤニック・アレノというフランスが誇るふたりの巨匠が肩を並べたそうで、なんというかモナコよ、やることがすご過ぎる…。
（インスタにアップしたら大反響だったイケメン料理人ギヨーム・ビュライアーさん。
地中海の食材はギヨームさん自身のスタイルにも合うとか）
開店から一年を待たずに一つ星に輝くなど、順調なスタートを切ったパヴィヨンですが、ここ、ルイ・キャーンズといい意味で対を成しているのです。ヤニック・アレノから厨房を任されたGuillaume Bellayer ギヨーム・ビュライアーさんはこう言います。「シェフ・ヤニックは古典料理を習得し、特に伝統的なソースには定評のある料理人でした。けれども時代は進化し、人々の嗜好も変化します。フランス料理の伝統であり真髄でもあるソースを現代的に再構築する。そこから生まれたのが現在の彼の代名詞でもあるエクストラクションです」。
（アミューズからデザート、ミニャルディーズまで、
手数がしっかりかけられていてシンプルな構成なのに味わいの完成度が高い）
エクストラクションは、その土地で採れる野菜やフルーツ、きのこなどを遠心分離にかけて、油脂を使わずにピュアなうま味のみを抽出した液体のこと。これに発酵食品などを加えることで、健康的で軽い口当たりなのに風味が豊かで印象的な新しいソースに仕上がります。
（日本人にとっては寿司というより創作料理。
海外でしか出合えないその土地らしく進化・変化した日本料理が大好きです）
とりわけ印象的だったのは、ハーブのエクストラクションを用いたブラウンライス（玄米ですね）のパヴィヨン風ちらし寿司です。フランス料理は他の食文化を柔軟に受け入れ、混じり合いながら発展してきた歴史があるとか。パリで寿司店を手がけるヤニック・アレノは、日本で魚の扱い方を学んだそうで、魚介類に恵まれた地中海のモナコで魚のおいしさを素直に味わう方法として、この表現を選んだそうです。
（オープンキッチンを囲むクロスもマットもないカウンターや、
地中海に面したオープンエアのテラス席などテーブルセッティングも今っぽい）
ルイ・キャーンズとパヴィヨン、両方を体験したからこそ理解が深まったモナコの食文化の奥深さ。贅沢な旅にはなりますが、できることならどちらにも足を運んでほしい。さらに地中海沿岸には、東にマントン、西にマルセイユとガストロノミー好きにはたまらない街があるわけですが、こちらの旅のご案内はまたあらためて。
＜データ＞
Pavyllon Monte-Carlo, un restaurant de Yannick Alléno パヴィヨン モンテ・カルロ アン・レストラン・ドゥ・ヤニック・アレノ
https://www.montecarlosbm.com/en/restaurant-monaco/pavyllon-monte-carlo-un-restaurant-yannick-alleno-hotel-hermitage-monte-carlo
＊公式サイトから予約できます
＊記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます
取材協力：モナコ政府観光会議局 https://monacotabi.jp/
モンテカルロ・ソシエテ・デ・バン・ド・メール https://www.montecarlosbm.com/en
