世界のファインダイニング by 江藤詩文

2021年もっとも記憶に残ったあの一食 星11個・7人のスターシェフが魅了した一夜の宴「合餐2021 Gohsan 7chefs in Fukuoka」—前編−

読者のみなさま、新年あけましておめでとうございます。
旅恋アンバサダー「世界のファインダイニング」担当の江藤詩文です。

いろいろと不自由なことも多かった2021年、みなさんはどこで誰とどんなおいしいものを楽しみましたか?
今回は新年の特別編として、2021年にもっとも感動した素敵な体験をご紹介します。

それは昨年11月のこと。福岡・天神に日本を代表する7人の最高の料理人たちが集まりました。まずは参加したメンバーを(前夜祭の模様もこっそり含めつつ)ご紹介します。

東京「傳」長谷川在佑さん(右)
2021年「アジアのベストレストラン50」3位、2021年「世界のベストレストラン」11位、「ミシュランガイド東京2022」二つ星
左はサポートメンバー(後編参照)、福岡「赤坂こみかん」の末安拓郎さん

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東京「Floriege(フロリレージュ)」川手寛康さん(右)
2021年「アジアのベストレストラン50」7位、2021年「世界のベストレストラン」39位、「ミシュランガイド東京2022」二つ星
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東京「Ode(オード)」生井祐介さん(中央)
2021年「アジアのベストレストラン50」27位、「ミシュランガイド東京2022」一つ星

福岡「La Maison de la Nature Goh(ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ)」福山剛さん(右)
2021年「アジアのベストレストラン50」30位、「ミシュランガイド福岡2019年」一つ星

左は晩餐会でナビゲーターを務めた「世界のベストレストラン50」日本評議委員長でコラムニストの中村孝則さん


東京「デンクシフロリ」清水将さん
「ミシュランガイド東京2022」一つ星


大阪「La Cime(ラシーム)」高田裕介さん(右)
2021年「アジアのベストレストラン50」8位、2021年「世界のベストレストラン50」76位、「ミシュランガイド京都・大阪+和歌山2022」二つ星


和歌山「villa aida(ヴィラ アイーダ)」小林寛司さん(左)
2021年「アジアのベストレストラン50」64位、「ミシュランガイド京都・大阪+和歌山2022」二つ星&「グリーンスター」
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この豪華すぎるラインナップ。7人合計星11個。世界でもっとも愛するシェフTOP10のうち7人(あと3人はいずれまた)がいっぺんに集まるなんて、まるで私のために開催されるディナーみたい(←違います)

とにかく自由過ぎてやんちゃ、個性もバラバラの7人をまとめたのはチームリーダーの福山さん。福山さんが営む「ゴウ」は、地方のレストランで働く人たちの希望の星。2016年「アジアのベストレストラン50」に彗星のごとく現れ、東京や大阪に集中しがちだったフーディーズを福岡まで呼び寄せ、日本のガストロノミーツーリズムをアジアに広めました。とりわけ台湾・韓国・香港・中国・バンコクといったアジアでは人気抜群。“西中洲の太陽”と愛されるおおらかで温かい人柄も相まって、地方でがんばる料理人、これから世界を目指すアジアの若手料理人にとって頼りになる兄貴分であり、憧れの存在です。

イベントを開催するのは2年ぶり、と福山さんは言います。「暗いニュースが多かった飲食業界に明るい話題を提供したかったし、自分たちも楽しみたかったし、何よりお客様に喜んでいただきたかった」。
福山さんが、この夜のために構成したのは「前菜1、前菜2、前菜3、野菜、魚、肉、締めのお食事、デザート」という8皿からなるコース。このメンバーなら当然、肉は「デンクシ」清水さん、野菜は「アイーダ」小林さん、お食事は「傳」長谷川さんで決まりだとして、あとは早い者勝ちで誰が何をつくるかなんとなく決まったそう。

それでは、この夜の料理を提供された順番にご紹介します。
まずは写真だけ見て、誰がつくったか予想してみてください。

前菜1
「魚介 へべす 島唐辛子 ココナッツ さつまいも」

「ラシーム」高田さんによる五島産イシガキダイのセビーチェ。ラシームが店を構える大阪の人たちが愛する野球チームのコンセプトカラー、黄色と黒の縞模様のクラッカーを添えて。ちなみに、セビーチェのマリネ液は「“タイガース”ミルク」と呼ばれます。高田さんは、宮崎県産の柑橘「へべす」中心に、シークワーサー、かぼす、ゆず、ライム、レモンと、さまざまな柑橘を組み合わせました。
詳しくは別途公開予定のコラムをお待ちいただきたいのですが、高田さんはこれまでにない味の組み合わせを、ほぼ脳内だけで構成できる人。“タイガース”という言葉遊びから生まれた完成度の高いキレッキレのセビーチェに、食卓の会話も弾み、華やかな夜のスターターにぴったりでした。

前菜2
「トマト チーズ 牛 スグキ」

「フロリ」川手さんと「傳」長谷川さんによる経産牛のカルパッチョと、チーズとすぐきのホットサンド。「身体にやさしい東西の発酵の知恵」を共通テーマに、フレンチのチーズと和のすぐきを合わせたコラボメニューです。
「楽しくておいしいサステナブル」をコンセプトに、多くの人に楽しみながらガストロノミーにおけるサステナビリティへと関心を持ってもらうために、長い間コツコツと努力を続けてきた川手さん。
代名詞でもある経産牛は、コンソメで軽くしゃぶしゃぶに。通常なら廃棄するチーズの皮は牛乳と合わせてもう一度発酵させ、軽やかなムース仕立てに。食材をあますところなく使い切る「フロリ」川手さんらしいメッセージが込められていました。

前菜3
「黒大豆 肝 黒無花果」

「ゴウ」福山さんによるフォアグラとケークサレ。福山さんは九州を中心に、地方の食のつくり手や生産地をサポートしてきた、いわば生産者の応援団長。この夜も“宣伝部長”として、福岡の魅力的な食材を紹介しました。
サクッと軽やかなケークサレに使われたのは、福山さんの出身地・福岡県朝倉郡で生産されるブランド黒大豆「筑前クロダマル」。これにスパイスの香る黒イチジクのチャツネと、福山さんが得意とするフォアグラ、エスプレッソ風味のチュイルを重ねました。

私はこれまで「筑前クロダマル」はもちろん「朝倉郡」がどこかも知らなかったのに、おいしいケークサレのおかげで筑前クロダマルをリサーチ。ついでに筑前町へのアクセスやおいしいもの、観光情報まで調べちゃった(←ライターあるある)。木酢(きず)という柑橘も気になります。ところがそのままポチッと思ったら、その流れが構築されていない。地方の行政にいろいろと歯がゆさを感じる一方で、諦めずに長年継続して地方の情報を発信している福山さんをあらためて尊敬しました。

野菜料理
「かぼちゃ みりん粕漬 ほうずき 柑橘ピール 卵黄」

「アイーダ」小林さんによる夢々しい栗かぼちゃ。まるごとローストした栗かぼちゃの実をガーゼで包み、レモンチェッロとみりんに漬けて、ごくわずかに柑橘の酸味の香るやわらかな甘味をなじませました。ソースはみりんをベースに、ほんの少しだけ卵黄を隠し味に加えてコクを出しています。
使う野菜の顔を見てからメニューを決めるという小林さんは、野菜の持つさまざまな味わいの中からひとつにフォーカスして、その味わいで繊細なグラデーションを描く達人。このお皿は、五味のひとつ「甘味」をメインとしながら、栗かぼちゃの持つ土っぽいほっこりした甘みから、ほうずきのフレッシュな甘酸っぱさまでが、いくつもの甘さのグラデーションで繋げられていました。誰がどう見ても一目瞭然の小林さんらしいタッチでつくる野菜の世界です。

魚料理
「ノドグロ 菊 ターメリック」

「オード」生井さんによるノドグロのデニッシュ。生井さんは「生井さんといったらこれ」というシグネチャーディッシュをつくるのがとてもうまい人。これまでも、インスタを埋め尽くした“映える”アミューズ「ドラ○ンボール」やミニマルを極めた「Gray」(そのうちこちらでもご紹介しますね)など、いろいろな看板メニューを発信してきました。いずれも見た目の楽しさもさることながら、味のオリジナル度と完成度が高く、生井さんでなければつくれないひと皿に仕上がっています。
旬の魚と野菜をデニッシュ生地で巻き込んでさっくりふんわりと焼き上げ、熱々のうちにソースと共に味わうこの料理も、間違いなく生井さんの代表作になると思う。この夜のゲスト全員(90名!)に焼き立て熱々を提供するために、7人のシェフが総出でサポートにあたりました。

さぁ、いよいよメインディッシュがやってきます。この続きは後編をどうぞ。

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